「会社に頼らないで一生働き続ける技術」井上久男氏
大企業でも先行き不安を覚える時代。「この会社にずっといていいのか」と悩むサラリーマンも多い。
「40歳定年」というセンセーショナルな文言が躍るこの本は、本紙連載をまとめた一冊だ。
「決して『40歳で会社を辞めろ』と勧める本ではありません。今の仕事に満足している人はもちろん、人付き合いが苦手な人、ストライクゾーンが狭い人はそのままでいいと思うんです。ただ、今は向上心が強く、自分のキャリア設計を考えている若者も多い。誤解を恐れずに言えば“小ざかしい人”も結構増えています。この手の小ざかしい人は独立や起業のハウツーばかり聞いてくるのですが、本当に大切なことが他にもあるんですよね」
つまり、これはハウツー本ではない。成功者たちのドキュメンタリーだが、そこから気づきや問題意識を得られる構成だ。
「40代で独立して成功した約20人に取材しましたが、彼らの共通項は『自責と覚悟』。失敗しても人のせいにしない、景気低迷などの外的環境のせいにしない。クヨクヨせず次の展開を考える、前向きな姿勢も共通項。取材を通して、僕自身も新たな気づきがありましたからね」
著者自身の経験も参考例だ。NECから中途採用で朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業を担当したのも、専門特化すれば書く仕事が一生できると考えたから。そして40歳で独立した。
「自動車はあらゆる下請け産業が結集した業界です。自動車を通して多種多様な産業を勉強できて、幅広く見る目を養えました。ところが、組織の中で出世街道をゆく主流派からすれば、僕は完全に変人扱いでしたよ(笑い)」
無難な意見しか通らない組織の中で、斬新な企画を出して意見を堂々と言う性分は、病原菌のように扱われたこともある。
「サラリーマン社会では組織や上司に従順な人間が評価されます。考え方が均質化された企業も多い。アイデアや引き出しが豊富でも、扱いにくい異端児の価値観を認めない傾向がありますから」
異端児になれ、ではない。やりたいことがあるなら、その意志を会社に伝えるべきだという。
「自分のキャリアをどう構築するかを決めるのは自分です。個々が持つ『キャリア権』を意識したほうがいい。働き方やキャリアに対して“くすぶり感”を持っている人に、ぜひ読んでほしいですね」
個人の働き方に新たな視点を提案する内容だが、今の日本企業に潜む問題点をあぶり出しているのかもしれない。(プレジデント社1400円+税)
▽いのうえ・ひさお 1964年、福岡県出身。九州大学卒業。NECを経て、朝日新聞社に転職。名古屋・東京・大阪の経済部で、主に自動車産業を担当。04年に独立。著書に「メイドインジャパン驕りの代償」「トヨタ愚直なる人づくり」など。福岡県豊前市政策アドバイザーも務める。