「文字を作る仕事」鳥海修著
39年前、書体を作るという職業があることを知って、著者は見出し書体でなく本文書体を作りたいと思い、故郷の清涼感のある水や空気のような書体をめざす。京極夏彦氏のところに担当編集者と一緒に開発したばかりの游明朝体Rを持って訪れたら、京極氏は機嫌が悪かった。おずおずと原字を見せると、表情を和らげ、「私たち作家はこういう人たちに支えられているからこそ成り立っている」と言って、「姑獲鳥の夏」の豪華本が出たとき、わざわざ書体名を扉の裏に明記してくれた。
書体設計の第一人者が、書体づくりに込めた思いや仕事にまつわるエピソードを語るエッセー集。(晶文社 1800円+税)