超私的「京都本」特集
「京都の壁」養老孟司著
鎌倉生まれ・鎌倉育ちの養老センセイが、京都にまつわる偏見をひもとく。一見「京都擁護論」だが、的を射た毒舌と達観が視野狭窄に陥りがちな現代人に気づきを与える。例えば、京ことば。「いけず」や「いちげんさんお断り」は意地悪ではなく、日本人が守ってきた「思いやり」と「非・儲け主義」の表れだという。
「敷居が高く、排他的」という心の壁は京都に限ったことではない。よそにもある。人との距離の取り方が典型的というだけで、京都の壁の実態は「地域共同体の壁」であると看破する。
また、年中いじっている人工都市・東京の不健全さ、東京大学と京都大学の違い、京都・大阪・東京の三都比較は面白いうえに説得力十分。ノーベル賞や世界遺産認定よりも京都賞(先端技術や基礎科学の国際賞)を礼賛し、地方創生のワナを鋭く指摘。養老節には思わず膝を打つ。京都の和菓子に相好を崩す甘党のセンセイと飼い猫のちょっと可愛いエピソードも染み入る。(PHP研究所850円+税)