「美しき雅楽装束の世界」遠藤徹著 青木信二撮影
宮廷や神社で古来、伝えられてきた雅楽の絢爛豪華な装束を紹介する写真集。
平安時代の宮廷文化の中で大成した雅楽は、5~9世紀にかけて中国大陸や朝鮮半島から伝えられた楽舞を源流にする舞を伴う「国風歌舞」や「舞楽」、外来の楽舞をもとにした器楽合奏の「管絃」、平安時代に整えられた歌謡の「催馬楽」、「朗詠」などからなる。
そしてその装束は、舞楽、国風歌舞、管絃の種別によって異なるものが用いられるという。中でも、もっとも華美な舞楽の装束は多くの演目で用いられる「襲装束」、蛮絵という円形に描いた鳥獣などの文様が刺繍された「蛮絵装束」、特定の演目用の「別装束」、子供が舞う童舞用の「童装束」に大別され、それぞれの曲目によって装束が決められている。また外来の楽舞は、中国大陸系の左方と朝鮮半島系の右方に大別され、装束も配色などが異なる。
例えば、襲装束では、左方が赤系統を基調とし金具が金色であるのに対し、右方は緑系統を基調とし金具は銀色といった具合だ。
そんな基本を解説した上で、演目ごとの装束がそれぞれ実演している姿とともに美しい写真で披露される。
例えば「北庭楽」と呼ばれる曲目では、4人の舞人は左方の襲装束を「片肩袒」で着用。「袍」と呼ばれる一番上にまとう上着を遠山の金さんのように右肩をぬいて着るこの着装法は、その下に着る「半臂」と呼ばれる胴着や「下襲」の文様もよく見ることができる。刺繍や織物によって描かれる桐・竹・唐草、そして鳳凰やひし形を組み合わせたその文様は、精緻を極める。
一方、袴(指貫)の裾に色糸で刺繍された「窠に霰」の文様は幾何学的で、現代的でさえある。
その他、袍に向かい獅子を刺繍した蛮絵装束で舞う「五常楽」、袍の上に毛縁がついた貫頭衣「裲襠」を着する「還城楽」という曲目専用の別装束、鈴を口から垂らした猿のような面をかぶり、袍は全体に紺色の糸の網がかけられ、その網目を透かしてさまざまな色で刺繍された鯉が泳ぐさまが見える「八仙」のための別装束など。その細部にまで凝った意匠や作りと、奇抜なデザイン力に雅楽の知識がなくとも飽きずに眺めてしまう。
各装束とともに、それぞれの曲目や、演奏に使われる楽器についても解説。普段なかなか目に、耳にする機会がない雅楽という日本のもうひとつの美が堪能できる格好の入門書となっている。(淡交社 3200円+税)