金正恩を「ロケットマン」呼ばわりと相変わらずのトランプだが、金正恩は本気なのか。
「独裁国家・北朝鮮の実像」坂井隆、平岩俊司著
アメリカはオバマ政権時代から、北朝鮮がまともな交渉のできる相手とは見ていなかった。もとはといえば、1994年の米朝枠組み合意。金正日時代の北朝鮮は合意内容を最低限守っていたと思われるが、ブッシュ息子政権時代にウラン濃縮について問題があると米側が指摘し、そこから関係がこじれ始めた。実は合意枠組み文書にウラン濃縮の記述はなく、北朝鮮は「こっちは約束などしていない」と反発したのだ。
このように独裁国との外交では過去との継続性を見るのが大事。だが、単なる偶然を深読みし過ぎて誤ることもあるというのは公安調査庁で北朝鮮分析の専門家だった坂井氏。対話相手の平岩氏は関西学院大の政治学者。2人の対談形式で「情報分析とはなにか」「北朝鮮ウオッチの実態」など多彩な話題におよぶのが本書の持ち味だ。
恐怖と好奇心の半ばする北朝鮮報道。冷静に読み解くための手引書だ。
(朝日新聞出版 1800円+税)
「金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日」牧野愛博著
今年初め、ICBM開発を「締めくくりの段階」にあると発表した北朝鮮。それがどうやら実現したらしいというのが昨今の情勢だ。
朝日新聞ソウル特派員の著者によると米韓両軍は新たな朝鮮戦争勃発に備え、空爆や地上戦だけでなくゲリラ戦や北朝鮮の体制崩壊をねらう戦略を組み込んだ「5015」作戦計画を準備したという。これを韓国メディアが「金正恩斬首作戦」と呼び、北朝鮮は激しく反発した。韓国では核武装論が高まり、この動きはトランプ政権下に持ち越されているのだ。
(講談社 840円+税)
「粛清の王朝・北朝鮮」羅鍾一著 ムーギー・キム訳
2011年に金正日が亡くなったとき、少なからぬ数の北朝鮮ウオッチャーが、スイス育ちの金正恩は改革・開放路線をとり、政権のナンバー2には「偉大な金日成」の娘婿だった張成沢が座に着くものと観測した。
しかし、歴代韓国大統領の補佐官を務めた著者の見方は正反対。現実はその通りになり、張は13年に無残に粛清された。本書はこの知られざる張の人生を通して北朝鮮の権力闘争の実態を論じる。彼がなぜナンバー2から滑り落ちたのかが正恩の内面に巣くう「恐れ」を解く鍵になるのだ。
(東洋経済新報社 1800円+税)