著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「屍人荘の殺人」今村昌弘著

公開日: 更新日:

 いやあ、楽しい。第27回の鮎川哲也賞受賞作だが、読み始めたらやめられず、一気読みである。困ったのは、その基本設定をここで紹介できないことだ。その基本設定は91ページのところで明らかになる。全体が300ページの小説であるから、最初の3分の1のところだ。まだ3分の2が残っているのなら、紹介してもいいのではないか、との気がしないでもない。しかし、それを明らかにしてしまったら、読書の興がややそがれることは否めない。というのは私、何も知らずに読み始めたので、ここでぶっ飛んだのだ。なんなのこれ? その驚きをみなさんにも共有してもらいたいので、ここはぐっと我慢する。

 ヒントをひとつだけ書いておけば、西澤保彦の傑作「七回死んだ男」を想起したということだ。最近、新装版が出たばかりなので、「七回死んだ男」を未読の方はぜひこの初期の傑作をお読みいただきたい。つまり、ある特殊な設定をつくり、その上で犯人捜しをするということだ。

 近年の作品なら、白井智之著「東京結合人間」がこのタイプの作品になる。ようするに、奇想と本格ミステリーの見事な融合だ。

 さらにもうひとつ、このデビュー作の美点を挙げておくと、人物造形が素晴らしいこと。ラストにヒロインが「敵」のひとりに「彼は、私のワトソンだ」と啖呵を切るシーンには、思わずぞくっとした。

 才能豊かな新人の登場に拍手しておきたい。

 (東京創元社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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