「廓に噺せば」桂歌蔵著
壽雄は横浜の色街だった真金町の一角にある遊郭・永代楼の一人息子として生まれた。父の死後、祖母と折り合いが悪かった母が出て行ったので、祖母の手で育てられた。
5歳のとき、祖母に連れられて行った寄席で聞いた落語が好きになった壽雄は、祖母にねだって蓄音機を買ってもらった。壽雄よりすこし年上で、永代楼でかむろとして働いていたまいに、「好きな歌はなに?」と聞くと、二葉あき子の「古き花園」だという。壽雄はSP盤のレコードを買い、まいに聴かせるようになったが、ある日、まいが突然泣き出した。「水揚げ」が怖いのだという。そのとき、鬼のような顔をした祖母が戸を開けた。
故・桂歌丸の弟子が師匠をモデルにした人情ばなし。
(光文社 1700円+税)