「いまこそ『社会主義』 混迷する世界を読み解く補助線」池上彰、的場昭弘著/朝日新書

公開日: 更新日:

 コロナ禍が世界的な規模で資本主義に大打撃を与えている。経済成長が止まり(部分的には衰退が起きている)、国家間、地域間、階級間、ジェンダー間の格差が拡大している。

 アメリカやヨーロッパでは、社会主義に対する再評価が起きている。日本でも共産党の影響力が強まっている。このような状況を踏まえてジャーナリストの池上彰氏とマルクス研究の第一人者である的場昭弘氏(神奈川大学副学長)が社会主義の可能性について知的刺激に富んだ議論をしている。

<池上 アメリカのサンダースやウォーレンが主張している国民皆保険や大学の学費を低く抑えようといったことは、日本でできていることですよね。それをトランプや共和党は社会主義だ、極左だと言っている。アメリカに言わせれば、日本のさまざまなシステムって、社会主義的なシステムなんです。

的場 社会主義の影響を受けて生まれた「総力戦システム」には、3つのパターンがあります。/第一次世界大戦と世界恐慌を経て、多くの国は「総力戦」による国家介入モデルをつくりますが、その一つが「ソ連型社会主義」だったと言えないことはない。ロシア革命も、第一次世界大戦の影響を受けた、国家が生き残る一つの選択肢だったと言えます。もう一つが、アメリカなどがとり入れた「ニューディール型国家介入主義」。そして最後が、ドイツのナチスなどが採用した「ファシズム」です。/これらのなかで「ニューディール型国家介入主義」的な政策をとる国は、日本も含め、いまも数多くあります。その意味で、社会主義というシステムは世界に大きな影響を与え、それらのシステムが未だに存続している国もある、ということです>

 ソ連型社会主義(スターリン主義)、ニューディール型国家介入主義(後期資本主義もしくは福祉国家)、ファシズムという3つの選択肢の中で、もっともマシな選択肢はニューディール型国家介入主義だと思うが、コロナ禍の危機の中で、自国優先を極端に打ち出すファシズムが影響力を強めているというのが現実と思う。人類の未来はあまり明るくなさそうだ。

 ★★★(選者・佐藤優)

 (2020年12月17日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」