アニメ・ニッポン
「日本アニメ誕生」豊田有恒著
いまや世界中の若者がイメージする日本文化はアニメ。その歴史を振り返る。
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日本SF界の草分け作家として長年活躍してきた著者だが、実は若いころ、平井和正原作のテレビアニメ「エイトマン」の脚本を書いたことでも知られる。
その腕を買われて手塚治虫の虫プロで「鉄腕アトム」の脚本担当の嘱託社員として高給を食んだこともあるという。
本書はそんな時代を含む回想記。著者自身の歩みが日本アニメの歩みに重なる当事者の貴重な証言だ。
特に印象的なのが手塚の横顔。後進の有望な若者に無類の親切を示す一方、後輩への嫉妬も隠さない。
虫プロの社長でありながら社内で最も過重労働を強いられ、みずから労働組合を結成して委員長になり、会社に待遇改善を要求したいと半ば真顔で言ったこともあったらしい。著者は誤解から手塚の勘気を被り、数年間没交渉になったが、それでも無類に優しい人だったと感謝をあらわにする。
「スーパージェッター」や「宇宙少年ソラン」などSFアニメの多くに関わった著者は後年、「宇宙戦艦ヤマト」の設定の原案を手がけるが、当時の裏話も豊富。作画の松本零士だけでなく、アニメがいかに集団制作の産物かがよくわかる。
アニメファンなら見逃せない貴重な回想だ。
(勉誠出版 1800円+税)
「アニメ大国建国紀」中川右介著
「鉄腕アトム」の虫プロをはじめ、「宇宙エース」のタツノコプロ、「鉄人28号」のTCJ、「オバケのQ太郎」のスタジオ・ゼロ、戦前からアニメ制作に携わったうしおそうじ率いるピープロなど、テレビアニメの草創期に大活躍した数々の制作プロダクションは歴史の一部であると同時に、いまもアニメ界に大きな影響力と遺産を残している。
本書はそれら数々のプロダクションの動きを中心に、日本のテレビアニメがたどった道をくまなく探索したノンフィクション。著者はクラシック音楽雑誌の元編集長という経歴の異色のノンフィクション作家だ。
アニメ以外にも歌舞伎や歌謡曲、映画業界との対話も重要だからです、と答える姿勢がいい。
(イースト・プレス 1950円+税)
「東映動画史論」木村智哉著
名作「白蛇伝」をはじめ、数々の日本アニメの名作・傑作を制作したことで金字塔を打ち立てた東映動画。のちにスタジオジブリを設立する高畑勲と宮崎駿がアニメーターとして最初に働いた会社でもあるし、劇場用アニメを年に1作ずつ制作することを目指しながら、テレビアニメが時代を席巻するとそこにも進出して大きな足跡を残してきた。
その歩みを映画史の研究者があますところなく調べ尽くしたのが本書だ。「経営と創造の底流」という副題にあるように、アニメの制作現場だけでなく、企業としての経営にも深く踏み込む。
特に親会社の東映との関係はアニメファンも知らないことが多数。時代劇で大衆的な人気を誇った東映も学校の先生らには評判が悪く、それを盛り返すために「児童向け」のアニメ会社が重用されたという。
(日本評論社 3200円+税)