「世界の美しい灯台」デイヴィッド・ロス著、秋山絵里菜訳
記録に残る最も古い灯台は、紀元前280年ごろに建造され、1323年まで残存していたエジプトのアレクサンドリアの大灯台だとされる。高さ100メートルもあり、古代世界の七不思議のひとつにも数えられるこの灯台は例外で、灯台が盛んに建造されるようになったのは、商業輸送が増えた18世紀半ばからだという。それまで何世紀もの間、夜の航海は月明かり頼みだった。
そして現在、衛星航法やレーダー、GPSの登場によって現役で稼働する灯台の数は減少の一途だが、一部では地域のシンボルとして改修や保存が進む灯台も多い。
本書は、そうした世界各地の灯台を収めた写真集。
監獄で有名なアメリカ・サンフランシスコ湾にあるアルカトラズ島に灯台が建てられたのは1854年。現在の灯台は、監獄建設に合わせ、1909年、灯火設備はそのまま引き継ぎ、セメント造りで建て替えられたもので、多くの映画の舞台となり、見覚えのある方も多いだろう。
同じくアメリカ・アラスカ州ヘインズの内陸水路の小島に据えられた「エルドレッドロック八角灯台」は、コンクリートの建物の上に木造の八角形の塔が立っている。灯台は独立した塔を表す言葉なので、こうした建物と一体型のものは厳密には航路標識事務所と呼ぶらしい。
かつては灯台には住み込みの管理人が欠かせなかったが、現在ではほとんどが自動化され、灯台守という仕事はこの世から消えようとしている。
そんな中、エルドレッドロック八角灯台と同じように建物と一体型の「トレドハーバー灯台」(アメリカ・オハイオ州)では、灯台がいたずらされないようマネキンの灯台守「サラ」が窓辺で目を光らせている。
カナダ・プリンスエドワード島の「スリス灯台」は、白いペンキで塗られた木造で、窓枠などが赤く縁どられ、小説「赤毛のアン」の舞台の地にふさわしい可愛らしい灯台だ。
厳しい大自然の最前線に立つ灯台はまた、絶景と出合える場所でもある。
絵に描いたような夕焼けをバックにしたカナダの「ペギーズポイント灯台」や、襲いかかる大波に耐えるソダス湾の灯台(アメリカ)、びっしりと氷柱で覆われたセントジョセフ北埠頭の灯台(アメリカ)など。まずはアメリカとカナダの灯台をめぐる。
以後、ヨーロッパ、イギリスとアイルランド、そして日本を含むアジアやその他の地域200基以上の灯台を美しい写真で紹介。
昔ながらの歴史ある灯台の他、まるでデザイナーズマンションのようなスタイリッシュな「プンタフロウセイラ灯台」(スペイン)や伝統的な風車を模した(羽根は回転しない)ポーランドの「シフィノウィシチェ防波堤灯台」、巨大な馬の形をした「チェジュ島港灯台」(韓国)など変わり種も多数。世界は広い。
異国の潮風を感じながら、灯台と絶景のコラボレーションが楽しめる写真集だ。
(原書房 4180円)