「和想百景」 藤浪秀明著
「日本を感じる風景」をテーマに、SNSで発信を続ける絶景写真家の作品集。
撮影場所は主に関西で、有名な観光地や名所も含まれているのだが、どの作品もまるで初めて見るかのように新鮮な驚きと美しさを感じさせてくれ、まさに日本の絶景と出合える一冊だ。
日本の春といえば桜。ページを開くと、まず京都・高台寺の一景が現れる。寺院の一室、開かれた書院障子から見える白砂の庭が陽光に輝き、白砂に反射した光にしだれ桜が揺れている。2019年のみ公開された場所からの風景で、普段は立ち入ることができない場所から見た特別な一枚だ。高台寺は、秀吉の正室・ねねが秀吉の冥福を祈って建立した寺院。2人の関係が一枚の写真の中に凝縮したように、温かく、静かな時間が流れている。
奈良の壺阪寺の大仏は、満開の桜に囲まれ、まるで桜の衣をまとっているかのよう。他にも、滋賀の彦根城の外堀を埋め尽くすかのような桜や、奈良の吉野山の満開の桜と大雲海が織り成す夜景、樹齢300年ともいわれるしだれ桜「又兵衛桜」と流星のコラボレーションなど、これでもかと桜の風景が並ぶ。中には、偶然見つけた、とあるダム湖の山桜を被写体に、会心の作品が撮れるまで4年がかりで撮影した一枚もある。
そんな桜尽くしの中に、紛れ込むように差し込まれた奈良県・長岳寺の一景に、ハッとさせられる。
樹木に囲まれた池に浮かぶように群生したカキツバタが、差し込む光に美しく映える。
そして、カキツバタの花の青が散らばった池の水面を揺らしながら、まるで仏の使いのような黄金の鯉が何かを告げるかのようにこちらに向かってゆっくりと泳いでくる。
夏の章の扉を飾るのは、奈良の三輪の夜空いっぱいに広がった大花火。その花火の輝きが、大神神社の日本一の大鳥居のシルエットを浮かび上がらせる。
和歌山県にある古座川の上流の滝を目指している時に見つけた風景は、この世界に存在するあらゆる緑色がすべて一枚に収まっているかのように、豪華な緑のグラデーションをつくり出す。
大阪のとある竹林では、陸生のヒメボタルが明滅しながら観客のいないショーを繰り広げ、奈良・藤原宮跡の池では、蓮の花がまるで太陽を抱くように空に向かって高く茎をのばしている。
そして季節は秋へ。長野・御射鹿池の水鏡に映った秋景色を切り裂くように鴨が泳ぎ、兵庫県・安国寺では庭のドウダンツツジをどのように撮ろうか悩んでいると、現れた粋人が影絵のように写り込み、作品を一幅の絵画に仕上げる。
さらに、雪景色の京都の下鴨神社や岐阜の白川郷など、四季それぞれの絶景が並ぶ。
日本の風景の美しさ、魅力に改めて気づかせてくれる作品集だ。
(KADOKAWA 2200円)