「中国民衆玩具」尾崎織女著、高見知香/写真
日本玩具博物館(兵庫県姫路市)がコレクションする中国玩具を紹介、解説する写真図鑑。
紹介される中国玩具の多くは、清代(1644~1912年)のころに大陸各地で誕生し、その土地の人々に愛され、受け継がれてきた地域色豊かな品々で、中には宋代(960~1279年)や明代(1368~1644年)に起源を持つものも。
こうした中国玩具の多くは、寺院や道観(道教寺院)の廟会(日本の縁日のようなもの)で土産物として売られていた。祭礼の日の参道で買われたこうした人形や玩具は、子どもの遊び相手だけでなく、持ち主や家族に幸福をもたらす吉祥物(マスコット)として大切に扱われ、人々の暮らしを彩ってきたという。
まずは、広い大陸の東北部にあたる遼寧省・吉林省・黒竜江省の玩具から。
遼寧省では「揺鼓」、吉林省から黒竜江省では「孩儿打鼓」と呼ばれるおもちゃは、日本の「でんでん太鼓」によく似た音が鳴る玩具だ。
でんでん太鼓とは異なり、泥人形の腹部を太鼓に仕立てた孩儿打鼓も、色紙の衣装を着せられた泥人形が太鼓を抱える揺鼓も、持ち柄を振ると、取り付けられたバチが太鼓を叩く仕掛けになっている。
アジアでは、こうした仕掛け玩具の素材として、しなやかで折れにくい竹が多用されるが、寒冷のため竹が育ちにくい中国の東北部では、代わりに高粱が使用されている。
同じタイプの玩具は、山東省や河南省でも作られ、そこには音によって目に見えない悪霊から子どもを守ろうとする親たちの愛情がこもっているという。
同じく遼寧省の大都会・大連で収集された木製人形「打把勢」は、人形から伸びた棒を回すと針金でつながれた両腕や両足が激しく動く。人形の手は中国武術に用いる柳葉刀を持ち、その動きは武術のようでもある。打把勢には、「手足をやたらバタバタ動かす」「武術の練習をする」というふたつの意味があり、まさにこの玩具にピッタリの名前だ。
また北京の郷土人形「毛猴(猿)」は、漢方薬局の店員が店の売り物のセミの抜け殻や辛夷(コブシのつぼみ)をつかって店の会計係に見立てた猿を作ったのが始まりだとか。
紹介されているのは毛猴たちが麻雀卓を囲んでいるものや、人力車を引いたり街角で食べ物屋を開く猿など、当時の風景を猿たちで表現するのが特徴だ。
他にも、シュロの葉を用いてカマキリやバッタなどの昆虫を作る湖南省長沙市の「棕編昆虫」や、棒の先に結び付けたムチで回転を与え続ける新疆ウイグル自治区の叩き独楽「陀螺」など、東北・華北・華東・中南・西南・西北の6地域別に83種類の玩具を紹介。
中には、戦乱や文化大革命などの混乱によって中国ではもう姿を消してしまった玩具もあるという貴重なコレクションだ。
(大福書林 3850円)