ヒトと自然との共生!自然を考える本特集

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「人間がいなくなった後の自然」カル・フリン著、木高恵子訳

 日本の国土の実に3分の2は森林が占めている。日本人の気質や文化は、この豊かな緑によって育まれたといっても過言ではないだろう。今週はそうした樹木や自然と人間とのかかわりについて考えるヒントをくれる本を紹介する。



「人間がいなくなった後の自然」カル・フリン著、木高恵子訳

 スコットランドの首都エディンバラから南西に24キロにあるウエスト・ロージアンには、赤みがかった巨大なボタ山が山脈のように連なっている。オイルシェールから石油を精製したあとの廃棄物だ。その総計は2億トンにおよぶという。

 1962年に最後の鉱山が閉鎖。ボタ山は長年、放置され無視され続けてきた。著者がそのひとつグリーンディケスに登ると、植物相が奇妙な混在を見せていた。2004年に生態学者がこれらのボタ山の植物相と動物相を調査したところ、半世紀を経て思いもよらぬ「ホットスポット」(例外的に多数の絶滅寸前の種が発見される自然環境のこと)に変貌していたことが分かったという。他にも今も危険が残るチェルノブイリや、産業の衰退で荒廃都市となったアメリカのデトロイトなど12カ所を巡り、人間の不在によって予想以上に進む自然の再野生化の現実を報告する紀行リポート。

(草思社 3740円)

「明治神宮 100年の森で未来を語る」明治神宮国際神道文化研究所編

「明治神宮 100年の森で未来を語る」明治神宮国際神道文化研究所編

 広大な森に囲まれた明治神宮の鎮座100年(2020年)を記念して行われたシンポジウムの記録集。

 まず、中島精太郎宮司が100年を概観。明治天皇が1912年に崩御すると、そのご神霊を「お祀りし永遠に敬仰申し上げたい」との願いが国民から湧き起こり、明治神宮の創建運動へとつながったという。翌年に創建が閣議決定されると、各地から招致嘆願があったが御料地の代々木に決まる。不毛の原野だったこの地を、人の手によって神宿る森とする計画が立てられ、全国から10万本もの献木が運ばれ現在の基礎がつくられた。そして100年という歳月が人工林を世界にも稀な自然林へと変えていった。他にも、人はなぜ森をつくるのかを考察した養老孟司氏や、明治神宮の森に生きる生き物たちについて語る伊藤弥寿彦氏ら、33のテーマで行われた講演やパネルディスカッションを収録。

(鹿島出版会 3520円)

「カラー版 甦る戦災樹木」菅野博貢著

「カラー版 甦る戦災樹木」菅野博貢著

 戦災樹木とは、戦争時の空襲の痕跡を今も残している樹木のこと。終戦から78年が経ち、戦争体験者の多くが鬼籍に入る中、戦争の痕跡を今も生々しく伝えているのが戦災樹木で、日本だけに存在するものだという。

 なぜなら、大戦中、外国の各都市も激しい攻撃を受けたが、その目的は石造りやレンガ造りの建造物の破壊で、日本の都市のように木造住宅を焼き払うことに特化した空襲を受けた都市はないからだ。

 また、日本の都市には多くの神社仏閣があり、そこに神の依り代としてのご神木が存在した。終戦直後、単に損傷した樹木なら諸外国にもあったはずだが、日本の都市の樹木はご神木であるがゆえに撤去されずに残された。しかし、近年、価値観の変化とともに人知れず伐採され失われてしまう例も少なくないという。

 本書は、全国各地に残る戦災樹木や、広島・長崎の被爆樹木などを紹介しながら戦争の現実を今に伝えるビジュアルブック。

(さくら舎 3960円)

「種をあやす」岩﨑政利著

「種をあやす」岩﨑政利著

 長崎の雲仙地方で農業を営む著者は、年間50種類もの在来種の野菜を、有機農法で育てている。在来種とは、地域内だけで流通したり、農家が自家消費用に育てる、その土地ならではの野菜だ。

 農家が先祖代々守ってきた門外不出の種や、山奥でひっそりと生き延びてきた幻の種、そして別の土地の農家から譲り受けた種を畑にまき、花を咲かせ、また種を採るという作業を40年間、毎年繰り返してきた。

 何十年、何百年とその土地で受け継がれ、大切に育てられてきた在来種は、もはや単なる種ではなく、その種を継いできたすべての人たちの思いが込められているという。

 家業の農家を継いだ氏は、原因不明の体調不良を機に有機農法に転換。自らの農法を模索する中で、当時誰も見向きもしなかった「種」に注目する。毎年欠かさず採ることで、種は年々よくなり、出来上がった野菜の質で応えてくれるからだ。

 種を育て、種を採る、その地道な作業の繰り返しの中で学んだ哲学を伝える。

(亜紀書房 1870円)

「地域森林とフォレスター」鈴木春彦著

「地域森林とフォレスター」鈴木春彦著

 フォレスターとは、森林管理や林業経営のために、科学的な知見と法律に基づき規制や指導、管理方針や施業の立案・実行監理を行う技術者。

 ドイツやスイスでは、フォレスターが現場で活躍しているが、日本では組織ごとに役割が分けられているため、この定義がそのまま当てはまる単一の職業はない。あえて言えば、市町村林務職員、森林組合・民間林業事業体の森林施業プランナー、都道府県林務職員の業務を合わせたものがこの定義にあてはまるという。

 本書は、この3者を想定して、フォレスターとして働くための心構えや視点、基礎的な技術を解説したハンドブック。

 著者自身も2つの自治体で20年、フォレスターとして地域森林管理の一連の仕事に携わってきた。自らが森林管理の最前線で悩み、調べ、考え、実践したことを詳細につづりながら、今ある自然をこれ以上壊さないように、そして壊された自然の再生を目指す森林管理の方法を紹介する。

(築地書館 2640円)

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