「CARGOCULT」佐藤健寿著
「CARGOCULT」佐藤健寿著
「カーゴ・カルト」とは、南太平洋のメラネシアの島々にかつて存在した不思議な信仰のこと。外側の世界からもたらされるカーゴ=「積み荷」や「物資」に対する信仰だ。
第2次世界大戦後、各国の独立と発展によって消滅したが、この信仰が今なお人々によって守られ、大切にされている場所がある。
そのバヌアツ共和国のタンナ島を取材したドキュメンタリー写真集。
バヌアツのカーゴ・カルトには、日本も無関係というわけでもない。第2次世界大戦時、太平洋を南進する日本軍に対峙すべく、アメリカ軍はイギリスとフランスが共同統治していたニューヘブリディーズ諸島(現在のバヌアツ)の2つの島のビーチに、真珠湾以西における太平洋最大規模の巨大な基地を建設。基地に雇用された島民たちは、物資を満載した航空機や巨大な軍艦、最新鋭の武器、そして基地の豊かな暮らしぶりに大きな衝撃を受ける。
日本軍が敗退すると、アメリカは基地設備の大半を廃棄し、持ち込んだ大量の物資は海に投棄して帰還した。
やがてバヌアツ南部に位置するタンナ島で、「ジョン・フラム」と呼ばれる祖先の精霊がいつかアメリカと同等の物資を持って島に再来するという信仰が始まる。
さらに彼らは、イギリスやアメリカが持つ物資=カーゴは、そもそも祖先がつくったものであり、それらが不当に西欧の人々に奪われていると考えるようになったという。以来、80年余、彼らはジョン・フラムという謎の存在を信じ、その再来を待ち続けている。
伝承によると、イギリスの統治に反発し、伝統生活の復活を企てて刑務所に送られた村の首長の前にジョン・フラムが現れ、「アメリカという国の到来と、救済」を預言。首長たちは、預言通り島に現れたアメリカ軍の海兵隊員から、星条旗と海軍旗を受け取り「伝統生活のまま暮らせばよい」というメッセージを受け取ったといわれる。
それゆえに首都があるエファテ島などはリゾートとして発展したが、タンナ島には今も原始の自然と伝統文化が息づき、島内の「カスタム・ヴィレッジ」と呼ばれる村々では、男性はナンバスと呼ばれるペニスケース、女性は腰蓑をまいただけのほぼ全裸で100年前と変わらぬ自給自足の生活を送っている。
毎年、行われるジョン・フラム記念日には、「ナカマル」と呼ばれる集落の広場に「国旗」である「星条旗」が掲揚され、米兵と同じカーキ色の軍服を着た村の男たちが、軍隊風の行進を行い、最後には国歌である「星条旗よ永遠なれ」が鳴り響く。
著者は、そうしたタンナ島の人々の暮らしぶりから、島の自然やジョン・フラムの神話にまつわるランドマークなどをカメラに収めながら、ジョン・フラムとは何者なのか、神話について考察を重ねる。
IT全盛の現代にあって、神話が息づく稀有の島を取材した力作。
(朝日新聞出版 3300円)