漫画好きには堪えられぬ「浦沢直樹の漫勉」ディープな時間
【連載コラム「TV見るべきものは!!」】
東京・世田谷文学館で開催中の「浦沢直樹展・描いて描いて描きまくる」(今月31日まで)を見た。
迷路のような壁面を埋めつくす、膨大な量の原稿。しかもその一枚一枚が、当たり前だが、手で描かれた一本ずつの「線」で出来ているのだ。「YAWARA!」も「20世紀少年」も、こうして生み出されたかと思うと感動すら覚えた。
そんな浦沢が、これぞという漫画家たちの“創作の秘密”に迫っているのが、「浦沢直樹の漫勉」である。4日間ほど、漫画家の仕事場に複数の定点カメラを設置し、ペンの動きからつぶやきまでを記録。1カ月後、その映像を見ながら、本人と浦沢が語り合うのだ。
14年のシーズン0では「沈黙の艦隊」のかわぐちかいじ、昨年のシーズン1では「ゴルゴ13」のさいとう・たかをなどが登場した。そして今期の初回は、「ポーの一族」や「11人いる!」の萩尾望都だった。
鉛筆の下書きをインクで引き直していくペン入れのシーンなど、つい見入ってしまう。何たる繊細さ。納得いくまで手を止めない集中力と執念。特にセリフ以上に登場人物の心情を語る、萩尾独自の「目」の描写が圧巻だ。
また、浦沢の質問に答える形で、萩尾が「問題に直面している大人を描くのが、面白い」などと自己分析。漫画好きには堪えられない、ディープな時間が過ぎていく。
(上智大学教授・碓井広義=メディア論)