二代目白鸚襲名へ 松本幸四郎が「大石最後の一日」を熱演
幸四郎にとっても今月が、この名では最後の歌舞伎座だ。それを意識しているのだろう。幸四郎が選んだ演目は「大石最後の一日」。忠臣蔵の大石内蔵助が討ち入りを果たし、切腹する当日を描いたドラマで、父の代からの幸四郎家の当たり役だ。染五郎の長男の金太郎(来年から染五郎)も出演し、歌舞伎座の舞台に父子三代が揃った。
「名作を名優の名演で」というのが歌舞伎座の顔見世のコンセプトで、なるほど、その演技に「感心」はする。だが、面白いかというと、古すぎて、登場人物にも物語にも共鳴できない演目が多い。そのなかでは、昭和に書かれた「大石最後の一日」(作・真山青果)がドラマとして見ごたえがある。
必死に「死のう」としている女性を必死に務める中村児太郎の演技が役と重なり、リアル。幸四郎の、「幸四郎最後の一日」への思いも、異常なテンションとなっているのだろう。本当の「最後の一日」は千秋楽の25日である。
(作家・中川右介)