エリザのために(2016年、ルーマニア、仏、ベルギー)
1990年代のルーマニアは、民主化が進まず、汚職や不正がはびこっている。医師ロメオはそんな母国に失望し、愛娘エリザには英国に留学して自由に生きて欲しいと願う。
留学に必要な国家試験前日、娘は暴漢に襲われる。白昼堂々の犯行で、周囲に人がいながら、だれも助けようとしないことに驚く。合格圏内にいた娘は激しく動揺し、合格が危ぶまれる。
娘のためにと、父は嫌っていた不正に手を染め、警察署長や副市長に娘の合格を働きかける。ところが、副市長は疑惑まみれで、検察はかねてマーク。電話が盗聴されていたため、父の不正が明らかに。追い込まれた父に、検察官が紹介した聖書の一文がコレ。
どこかの首相のようにコネを使ってのうのうと暮らす人とロメオを比べたらかわいそうだが、人間はやっぱり弱い。娘のために不正を働く父親には、どこか同情する。
メガホンをとったクリスティアン・ムンジウはカンヌの常連。過去にパルムドールを獲得したほか、本作も監督賞に輝いている。少し離れたところから、必死に生きる市井の人たちに焦点を当てるカメラワークは、ちょっと切ない。
汚職という堅いテーマでも、男女関係を巧みに絡め、見る人の関心を緩くひきつけるのはさすがだろう。
夏休みに子供と一緒に見て、意見をぶつけ合うのもいいかもしれない。