サインボールをめぐる森繁久彌先生陣営との怒涛の攻防戦
ところが、いざサインをもらおうとしたその時、思いもよらぬ反撃(?)を受けるとは予想もしていなかったのだ……。それは、先生を取り巻く大人たちの森繁軍団であったのだ。自分たちというものがお付きしていながらやすやすと、わが先生がB級芸能人のダンカンなんぞにのせられ、野球のボールにサインなど書かせたとあっては一生の不覚、いや一生どころかサインボールは永久に残っていくかもしれないので、そーなると末代までもの笑いの種にならないとも限らないと、怒涛の防戦を繰り出してきたのだった。
しかし、森繁先生は器が大きかったねェ! そんな周囲の雑音を断ち切るかのごとく、背筋を凜と正すと右手に握ったペン先にまるで自らの魂を込めているかのようにスラスラ~、「これでいいかねェ」とかすかにほほ笑み、渡してくださったボールには「八十二歳にして幸田露伴を演ずる 森繁久弥」と達筆な文字が言葉と裏腹に若々しく躍っていたのだった。
余談だけど、森繁先生の書生をやらせていただいたこのドラマは96年の日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門の最優秀賞に輝いたのだった。貴重なサインボールに鑑定団来ね~かなあ!? (つづく)