サインボールをめぐる森繁久彌先生陣営との怒涛の攻防戦
クルクル~カラン!! 「すみません、先生、この野球のボールにサイン書いてもらっていいですかァ!?」「おっ……ホウ(手渡されたボールをゆっくりと回しながらなめるように見ると)ボールにサイン……ウム、初めてだなあ……」「先生おやめください!!」「ボールになんていけませーん!!」「サインならこちら色紙に毛筆もご用意しておりますし!!」
この風景、忘れもしない緑山スタジオの楽屋での出来事……。ボールを手に今まさにペンでサインを書こうとなさっているお方は日本芸能史に燦然と輝く森繁久弥先生であり、それを必死に制止しようとしているのは先生のマネジャーさんでありお付きの人であり、ボウヤ(身の回りのお世話をする弟子のような存在)であり、そして、森繁先生に悪びれることなくサインをねだっている者こそ紛れもないこの俺であるのだ。
ということは、今回の舞台は1995年、テレビ東京が96年1月1日に放送したお正月特番の2時間半ドラマ、森繁先生が小説家・幸田露伴を演じた「小石川の家」の収録の時のことなのだ。
少年時代より大の野球ファンであった俺はあの当時すでに、ボールに野球選手のサインをもらうことに飽きていたのだと思う。そこでなぜかは忘れたが、野球選手以外の方のサインボールを集めよう!! と急に思いついたのだった(と思う)。で、どーせ書いてもらうなら友人、知人に見せた時に「えーっ!! なんでこの人のサインボール??? てか、ホントに書いてもらったんだー!?」とその驚く顔がただただ見たかったのである。となれば、当然、超大物有名人しかあるまい!! となり、その最初のターゲットが森繁先生ということになったのである(ね、申し分ないでしょう!?)。