辻本茂雄は歩けないほどの腰痛でも90分間舞台に立ち続けた
そして90分以上、ほとんど出ずっぱりの舞台の緞帳が上がります。次々に登場する役者さんに続いて、いよいよ登場。ひときわ大きい拍手と歓声に迎えられた“茂造じいさん”の足取りは軽く、小走りをする場面も躍動感にあふれ、舞台狭しと動き回ります。腰の負担を少しでも減らすために事前にカットした動きも、本番では予定どおりこなす姿を見ながら「(辻本君の)腰が最後まで持ちますように……」と祈るような気持ちで見守っていました。無事に芝居が終わり、カーテンコールで舞台挨拶、最後にサインボールを客席へ投げ込み、緞帳が下りるまで、その動きにはなんの違和感もありません。
全てが終わると、倒れこむようにマネジャーの肩を借り、座ると痛みが増すので、立ったままで座長としてのダメ出しをしてから、長椅子に横になってしばらく動くこともできませんでした。座長として芝居を引っ張る責任感と存在感に「芸人さんて凄いな……」とあらためて感激したものです。
吉本新喜劇は時代とともに演者がかわっても、関西人にとっては生活の一部。“おもしろくて当たり前”というものです。この重圧は脚本を書いてみて初めて実感しました。作家ですらそう思うのですから、舞台で演じる役者さん、ましてや座長の重圧は計り知れないものがあると思います。
座長を退き、これまでの重圧からも解放された辻本君は、これからますます活躍の場を増やしていってくれることでしょう。