宗助改め2代目桂八十八さん 米朝師匠の酒の相手をしながら薫陶を受けた贅沢な時間

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宗助改め2代目桂八十八さん(落語家・57歳)

 戦後、上方落語を復興させた四天王のひとり、桂米朝師匠が亡くなったのは2015年。端正で博学、人間国宝の米朝師匠は趣味人でもあり、俳号「桂八十八」を名乗っていた。その名前を最後の内弟子の宗助が襲名する。亡き師匠の思い出、襲名の心境を語ってもらった。

  ◇  ◇  ◇

 うちの師匠のホームグラウンドといえば、西梅田・桜橋にあるサンケイホールです。師匠はここで長いこと独演会をやってはりました。

 私はといえば、子供の頃から落語が好きで、18歳の頃、親が料理の仕事をやっていたもんですから店を継ぐべく、桜橋交差点のサンケイホールと反対側の角のビルにあった「幸鶴」というフグ料理屋に修業に行かされてまして。ビルの上に行くと「新春吉例桂米朝独演会」という垂れ幕が出てるんです。これは見ないとと憧れましたね。

 18、19歳から入門は志願してたんです。私の家が師匠宅と近かったこともあって朝早くに訪ねて行ったりね。師匠は丁寧に対応して「家に来られるのも困りますんで」「落語会に顔出してくれるように」と言ってくれはるのですが、でも、その都度「弟子は取らない」とおっしゃって。それで独演会や一門会にチケットを取って行くんですけども、満席で入られへん時がある。そんな時は師匠が「ほな、袖で聞いて帰んなさい」と言われ、舞台袖で聞かしていただきました。

 でも、そのうち母親がしびれを切らして「いつまでたってもラチあかんでしょ」と言い出して。もう24歳やで、いい大人がと思ったけど、とりあえず一門会に母親と行くことになりまして。師匠には「とうとう親御さんを連れてきたか」言われて。その時に横にいた(桂)枝雀師匠に「弟子に取れへんか」、(桂)ざこば師匠に「この子、どないやねん」と言ったら、どちらの師匠も「ちょっと今は……」と。ようやく「ほな、わしが取らにゃ、しゃあないか」と内弟子にしてもらいました。

 普通、内弟子は3年ですけど、私が入門したのは10月末で、暮れから正月にかけて忙しくなる時期なので、「もうちょっとおってくれるか」というので追加で2年、5年いることになりました。

■端正で上品な墨の香りがした

 師匠はものすごくカッコよかったですね。たたずまいがよかったし、高座にスッと出てこられた時に上品な墨の香りがする気がしました。

 内弟子時代はお酒の相手をよくさしていただきました。この写真は28歳くらいかな。枝雀師匠がお越しになった時のものです。

 うちの師匠は夏場の暑い時期、1回か2回はビールを1杯飲むことはあったけど、「酒、持っといで」と言っていつもはじめから日本酒の冷や、常温をコップ酒でグイッと飲んでいました。飲んだ時は芸の話も芸談も昔の芸人さんの逸話も何でもしゃべってくれはる。たとえば「講談の面白さっちゅうのはな」言うてさわりのええところを目の前でやってくれはった。あんなに贅沢な時間はなかったですね。

 内弟子が明けてからもしょっちゅう「飲みに来い」と電話がかかってきました。私が出かけてしまう前に朝も早ようから電話がかかってきて「ほな、6時に来てくれるか」と予約を入れはるんです(笑い)。

 とにかく師匠は強かった。6時に行くと一番短くて4時間、日付が変わるまで飲むのが普通でした。正月なんか弟子たちは入れ代わり立ち代わりなのに、師匠はずっと座って飲んで、立つのはトイレに行く時くらい。

 私一人が相手の時もありました。その時は「宗助が来たさかい、余っている中途半端な酒、みな持っといで」と言わはって。一升瓶なり五合瓶なりに少しずつ残っているのが何本もあって、それを並べて「悪物からかたづけていこ」。本当はいい酒なんですよ。それを2人で全部空けたら、師匠は封を切っていない酒が並んでいるところを指して「おまんの好きな酒、1本持っといで」。私は「今からですか」という感じやったけどね。

 それでも稽古は怖かった。とにかくイライラしはる。「やってみ」「いや、違う」「あのな、わしがそんなふうに言うたか」「よう見とけ」言うて、昔はキセルでたばこを吸うてはったそうで、その時はキセルをカンカンカンとはたく。言われた方は余計緊張して、同じところで間違うて。

 でも、師匠がすごいのは稽古では怒っていても終わるとスッと変わるところ。「ほなら、ちょっと飲もうか」とまったく引きずらない。枝雀師匠もざこば師匠も「僕ら、ちゃーちゃん(米朝師匠の愛称)みたいなマネはようできん」言うてはった。

「打ち上げを見て帰りきて庭花火」

 今度、師匠の俳号「八十八」を襲名します。大阪はサンケイホールブリーゼ、東京は師匠が初めて東京で独演会をやらはった紀伊國屋ホールで襲名披露を行います。東京では「東京やなぎ句会」のメンバーでもあった人間国宝の柳家小三治師匠にもご出演いただきます。

 師匠の俳句で好きなのは「打ち上げを見て帰りきて庭花火」です。打ち上げ花火を見て、家に帰って線香花火しよか。夏の情景、風情を見事に詠んでます。私も「プレバト!!」の夏井先生の本を読んで俳句の勉強をしているところです。俳号を先に決めて「宗助」にしよか思てます(笑い)。

(聞き手=峯田淳/日刊ゲンダイ

■「桂宗助改メ 二代目桂八十八襲名披露公演」8月29日=大阪・サンケイホールブリーゼ、9月14日=東京・紀伊國屋ホール、10月8日=岡山コンベンションセンター、同10日=和歌山県民文化会館小ホール、11月13日=京都府立文化芸術会館
 

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