飯野矢住代誕生秘話<7>「姫」はミス・ユニバース効果で大繁盛も…
にんまりする「姫」のスタッフとは対照的に、山口洋子は手放しで喜べなかった。浮かぬ顔をしている洋子に「ママ、一体何が不満なんです?」と店のマネジャーはいぶかしそうに尋ねた。
「……ちょっとね」
理由は矢住代の金銭問題にあった。この時期、矢住代は芸能活動に加えて、「姫」の1日の報酬も1万5000円(現在の価値で6万円)を稼ぎ出していた。恐らく銀座のトップだったに違いない。何不自由なかったはずだが何かにつけて「ママ、ちょっと……」と金を無心していたという。
「あんた、毎日お給料あげてるでしょう。ギャラだってあるんだろうし」
「そうなんだけどね……。じゃあバンスってことで」
「バンス」とは「アドバンス」の略、すなわち「前借り」もしくは「前払い」を指す。恋人に貢いでいるらしいことは洋子も知っていた。ザ・タイガースの加橋かつみとの交際が世間を騒がせたが、破局後は大学生の恋人がいると週刊誌も報じていた。
あまりに要求が続くのである日、洋子は堰を切ったように言った。