五木ひろしの光と影<14>所属レコード会社の事務員ですら三谷謙が専属歌手だとは知らなかった
4週目は「逢わずに愛して」(内山田洋とクール・ファイブ)、5週目は「男の友情」(北島三郎)、6週目は「命かれても」(森進一)とさらに勝ち進んでいった。山口洋子が口にした「大丈夫よ」が現実のものとなろうとしていた。加えて、売れない歌手の復活劇に世間の注目は、いやでも高まった。事実、この頃、司会の長沢純が街を歩いていると「おい、三谷謙を落とすなよ」とか「三谷を頼むぞ」と声をかけられるようになっていた。世の中が三谷謙の「敗者復活劇」を気にしていた。ただでさえ、視聴率25%の高視聴率番組が、三谷効果でさらに上昇した。
「勝ち進むにつれて彼に風格まで出てきて、『もしかして、ひょっとすると』と思うようになった。あれは不思議な経験だったなあ。僕は最初の音合わせのときの印象があるから、この一連の出来事がとても偶然とは思えなくてさ」(平尾昌晃)
拙著「沢村忠に真空を飛ばせた男」の取材過程において、筆者は興味深いエピソードを聞いている。赤字経営に悩まされていたレコード会社「ミノルフォン」の遠藤実が社長の座を降り、徳間書店社長の徳間康快に経営権を譲渡したときのことだ。ある日、徳間康快が「姫」に顔を出した。徳間はオープン以来の「姫」の顧客である。「ママ、どこかにいい歌手いない? ウチの専属にしようと思って」と徳間が軽口を叩くと、山口洋子はこう返したという。