<152>早貴被告は野崎さんの死も無感情で傍観者のように振る舞った
早貴被告がクビをかしげた。
「お姉さんが勤めていた病院はどこだっけ?」
「横浜の……忘れました」
都内の病院に勤務していると聞いていたのでおかしい、とピンときた。
新宿から横浜の病院に通うなんて絶対にウソだと思ったが、私はそんなそぶりは見せなかった。
「忘れた? で、キミの荷物はどうしたんだい?」
「後で送ってもらうことにしていますから、それもあって姉のところに行くんです」
この年の4月に田辺にやってきた早貴被告は、衣服を入れたスーツケースだけで家財道具も持たず、ドン・ファンと一緒に暮らしていこうという様子はなかった。ドン・ファンはそのことで怒り、新宿のマンションを引き払うよう命じていたので、やっとそれに従うのだろうと思ったが、実際は違った。 =つづく