星屑の会「王将」は関西弁の役をずっと断ってきたでんでんさんが哀愁ある坂田三吉に
下北沢の劇場B1は満員でも100人入るか入らないかの小劇場中の小劇場。そこでたった1週間。今や売れっ子のでんでんさんや戸田恵子さんを拘束するのはそれがせいぜい。料金もあまり高くは設定できない。当然実入りは少なく、役者に正規のギャラは払えない。それでもみんな、このメンバーでやりたい気持ちと水谷さんへの信頼で快く出演してくれた。
「王将」は北條秀司氏の名作。新国劇の当たり狂言で、村田英雄の歌や「浪花恋しぐれ」で有名な、大阪の棋士・坂田三吉の物語だ。実は3部作で、まともにやれば9時間はかかる超大作である。それをぎゅっと凝縮して、それでも短い休憩を挟み、2時間45分の大作になった。
坂田三吉を演じるのはでんでんさん。出ずっぱりで膨大なセリフ。しかも、コテコテの大阪弁。実は今まででんでんさんは関西弁の役はずっと断ってきたのだそうだ。しかし1年にわたる並々ではない努力で見事浪速の棋士を演じ切っている。コミカルとシリアスがない交ぜになり、実に哀愁のある坂田三吉が出来上がった。
娘の玉枝を演じる戸田恵子さんも17歳から50歳までを可愛く老獪に演じていて素晴らしい。そして、その他のメンバーも何人もの登場人物を場面によって演じ分ける。還暦を過ぎた有薗芳記が6歳の孫の役までこなす。
長いお芝居をカットして短くしたことで、小説が詩になったような印象の芝居になった。
高齢化にもコロナ禍にも負けず、役者は皆、セリフが発せられる限り、体が動く限り芝居を続けていく。私たちにはそれしかない。