吉田拓郎“風穴”とシャウトの軌跡(前編)ピストルを鳴らした「KinKi Kids」の存在

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「アマチュアで広島でやっている頃から、シャウトができないってのはつまんねえなぁというのがあった。(中略)それができないっていうのは、僕は自分の限界だと思う」--。

 1970年の「イメージの詩」からおよそ半世紀、52年に及ぶ音楽活動の第一線から退と発表した吉田拓郎(76)が東京新聞のインタビューでその胸中を語って話題になっている。

■52年の音楽活動に終止符「ソウルシンガーだと自負」

「東京に出てきた時、フォークソングというブームがあって、その中に入っていたので、フォークシンガーということになっちゃったけど、本来、僕はソウルシンガーだと自負している」

 そのソウルシンガーの生命線がシャウトで、「そういうものを気分よくできないステージを、いつまでもやりたくない」「自分らしくなくなる、というのはよくない」「年齢だ。間違いない」などと持論を展開しているのだ。

 今後、コンサートツアーに出ることはなく、レコーディングもない。ファンの前に立つ予定もないという。ただ、往年のファンへの感謝、自分への褒美、そして70年代に意気込んだものの集大成として、ラストアルバムを6月にリリース。タイトルの「ah-面白かった」には、妻で女優の森下愛子(64)と、人生の最期に「あぁ面白かったって言いたいね」と話していることからつけたそうだ。

 拓郎らしいラストメッセージなのかも知れないが、ちょっとさばさばして、それで終わりなのかとの声もあるらしい。構成作家のチャッピー加藤氏はこう言う。

「ツアーについては2019年のツアーを最後と発表していましたし、アーティスト活動の終了も、今はじめてという話でもない。ごまかしもできるけど、ステージで約2時間、全力でシャウトするのが自分。その流儀から、決断されたのはファンには届いていることでしょう。拓郎さんはバンド出身で、一貫してライブを主戦場とするミュージシャンであり、なるほどソウルシンガーだと思います。ベテランになると、昔のヒット曲ばかりやって往年のファンを囲い込みに走る歌手も少なくない中、拓郎さんには全くそういうところがない。常に現役で、新しいことに挑戦してきた若い時のまんまだと思いますよ」

 引退も、決して後ろ向きではないのではないかと、こう続けた。

「インタビューでも『僕は音楽が好き。音楽を愛していて一生の友達』と言った通り、これからはまた違った形で音楽と関わっていくのを楽しみにされています。もうずっと、拓郎さんは若い人のステージを見たり応援されていて、新しい曲にも精通し、また新しい才能が出てくるのを心待ちにされています。団塊世代の旗手などと、時代の寵児として祭り上げられてきた『吉田拓郎』というイメージから解放され、好きに自由に楽しんでいこうとしているのではないでしょうか」

後半の人生はKinKi2人に集約されている

 6月にリリースするラストアルバム「ah-面白かった」。「入魂の一作」というから、仕上がりに相当の自信があるようだが、そのきっかけはというと、「とっかかりはあの2人。アルバムのスタートのピストルを鳴らしてくれた」というのが、ジャニーズアイドルデュオ「KinKi Kids」なのである。

 キャリアも年齢も、ジャンルも、接点を見いだしにくい向きもいるだろうが、拓郎は「僕の後半の人生はあの2人に全部集約されていると思う」とまで、東京新聞でのインタビューでコメントしている。

 KinKiの堂本光一堂本剛とは1996年スタートのフジテレビ系音楽番組「LOVE LOVEあいしてる」での共演からの付き合い。当時50歳の拓郎は若者を杓子定規で見て、見下し、ときに蹴とばしたい衝動にかられることもあったそうだが、番組の企画でKinKiのふたりにギターを教えたところ一生懸命練習し、見違えるように音楽への理解を深めた。また会食の席で酒を浴びるように飲んでいたところ、「あきまへんがな。食べなはれ」と体を気遣われ、涙腺が緩んだという。

「ここで、このままじゃいけないとシフトチェンジし、態度を改め、彼らから学ぼうとし始めたのが凄いところ」と、前出のチャッピー加藤氏はこう言う。

■いつのまにか自分が「大人の側」に

「字余りの歌詞に日本初の単独全国ツアー、CMソングもたくさん作り、キャンディーズや森進一への楽曲提供で、アイドルや演歌歌手とのコラボという今では当たり前に行われていることの先鞭をつけたりしてきたのが拓郎さん。人がやっていないことをやろう、旧態依然とした芸能界とか歌謡界に風穴をあけてきたからこそ、自分がいつの間にか凝り固まった大人の側になってしまっていることに気づき、軌道修正できたのでしょうね」

 ついに第一線から退くが、その決断も現状にとどまらず、常に前への姿勢だからこそできたのかも知れない。

 拓郎の実績、功績を挙げればきりがないが、本人はすべてを良い思い出に書き換えたりしていないのである。

「レコード会社主導の70年代、小室等、井上陽水、泉谷しげると4人で立ち上げたアーティスト主導のフォーライフレコード。NHKの『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』で先日取り上げられましたが、拓郎さんは番組を見て、いたくご立腹だったそうです。夢への挑戦からスタートしたのは事実でも、その後はてんでんばらばら。2代目社長として、レコード屋の旦那に頭を下げ、最前線で奮闘した拓郎さんには、このとき同じ会社にいた仲間に対して『おまえら何をしたんだ、誰も手伝ってくれなかったじゃないか』という思いがあり、それを忘れていないんですね。若気の至りだけど、美化するなというわけです」(レコード会社関係者)

 引退後も、拓郎は若いミュージシャンの活躍を応援したいとしている。悔しい思いもした夢への挑戦は、まだあきらめていないようだ。 =つづく

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