中森明夫氏の新刊「TRY48」は父親殺しの書でもあり、昭和へのレクイエムである
三島「そりゃあ、うらやましいな。ボクもね、『花ざかりの森』を一冊だけ残して、二十歳で戦争で死んでいたら、日本のレイモン・ラディゲになれたんだが。せめて70年の市ヶ谷で死にきれていたら……。ご覧のとおり、今や花ざかりからはるか遠く、老残の枯木だよ、ワッハッハッハッハッ」
「おたく」という言葉を広く浸透させたことで有名な中森明夫は、よく紹介されるように「コラムニスト兼アイドル評論家」であるのは間違いない。が、ぼくにとっては何よりアフォリズムの名手だ。現代屈指といってもいい。寺山修司と最も近い資質はそこにあるのでないか。『TRY48』にも寺山の引用か著者のオリジナルなのか判別しがたいフレーズがこれでもかと詰まっており、それもまたこの小説の大きな魅力になっている。
著者自身も寺山との資質の近さに自覚的で、最近は取材やイベントの場で寺山になりきっている。あるいは寺山が憑依している。寺山もどきの青森風イントネーションで話し、サインを求められれば「寺山修司」と署名する徹底ぶり。「代筆・中森明夫」と書き添える諧謔精神も痛快の極み。