中森明夫氏の新刊「TRY48」は父親殺しの書でもあり、昭和へのレクイエムである
■「実際に起こらなかったことも…また歴史のうちである!!」
著者が寺山や三島を敬愛しているのは間違いないが、それ以上に愛しているものがあるとしたら、彼らが生き抜いた昭和という時代だろう。「平成とは昭和の余韻にすぎない」はなかにし礼の名言だが、青森育ちという共通項をもつ三つ年上の寺山は「昭和は明治を模倣し、反復している」とうそぶく。令和に『TRY48』を読むぼくには、いずれもが中森明夫の発言のように感じられる。その意味においてこの小説は父親殺しの書であり、昭和へのレクイエムでもあるのだ。それを裏づけるように、消えゆく寺山は言ってのける。
「実際に起こらなかったことも……また歴史のうちである!!」