中森明夫氏の新刊「TRY48」は父親殺しの書でもあり、昭和へのレクイエムである
先週の本連載で、新宿のバー「風花」で催された朗読会の模様を報告したところ、望外の反響をいただいた。出演者のひとりとして、たいへんありがたいことである。今週はその会を島田雅彦さんと共に数年ぶりに復活させた中森明夫さんの新刊『TRY48』を取りあげてみたい。
同書は、1983年(昭和58年)に47歳で亡くなった歌人にして劇作家の寺山修司が、もし現在も存命で女性アイドルグループをプロデュースしたら……というパラレルワールドをリズミックな筆致で描いた小説。どれくらい「パラレル」かといえば、寺山だけでなく三島由紀夫も存命中という仰天の設定。ただ当然ながら実世界そのままの部分を意図的に残してもいるわけで、読者としては油断がならない。
ぼくも著者の饒舌な文体に翻弄されて正気を奪われたまま、でも夢中になってページをめくった。自分が迷路に入り込んでしまっているとふと気づき、大いに狼狽した瞬間もあった。このパニック状態こそが読書の大きな愉しみであることを知る人は多いはずだ。