ブラピ「バビロン」と小出恵介「銀平町シネマブルース」に見る映画館の存在意義
公開中のデイミアン・チャゼル監督の「バビロン」と城定秀夫監督の「銀平町シネマブルース」。サイレントからトーキーへと変わっていく1920~30年代のハリウッドを舞台にした群像劇「バビロン」では、世界初のトーキーによる長編劇映画「ジャズ・シンガー」(27年)を映画館で見て熱狂する観客に主人公のマニーが衝撃を受ける場面や、ブラッド・ピット扮するサイレント映画の大スター、ジャックが自分が主演したトーキー映画の大仰な演技に笑う映画館の観客の反応で、自分の時代は去ったと痛感する場面が出てくる。また「銀平町シネマブルース」はつぶれかけのミニシアターを舞台に、そこで働くことになった小出恵介扮する青年が、映画館に集う映画愛にあふれた人々と触れ合うことで一度は挫折した映画作りへの思いを再生させていく姿が描かれる。2つの作品とも“映画館”が重要なポイントになっているのだ。
この2本だけでなく、サム・メンデス監督の「エンパイア・オブ・ライト」(公開中)は1980年代初頭のイギリスの海辺の町にある映画館を舞台に、そこで働く心に傷を持つ中年女性と人種差別を受けている黒人青年が、愛を育んでいく作品。舞台となるのは歴史のある映画館で、そこで「炎のランナー」(81年)のプレミア上映が行われる日が、映画のクライマックスになっている。またスティーブン・スピルバーグ監督が初めて自伝的映画に挑んだ「フェイブルマンズ」(3月3日公開)では、主人公のサミー少年が「地上最大のショウ」(52年)を映画館で見た衝撃から、自分で8ミリカメラを手にして、映画製作にのめり込んでいく。期せずしてアメリカ、日本、イギリスの映画人が“映画館”で映画を見ることを描いた作品を作ったのは偶然だろうか。