バブル期の狂騒と終焉は「新しめの昔話」ではない 現代と地続きの「終わりのない物語」だ
『真珠とダイヤモンド』は、バブルが上り坂にあった1986年に準大手証券会社に同期入社、福岡支社に配属された3人の新入社員が主人公。熊本の無名私大卒22歳男性、石炭産業衰退後の斜陽化著しい田川出身の短大卒20歳女性、貧しいシングルマザー家庭ゆえ大学進学を諦めて就職した福岡市出身の高卒18歳女性。最後の彼女はまさしくぼくと同学年。実家も近所、どうやら通った高校まで同じ(無論ぼくの妄想込みにしても)。それぞれの理由で東京を目指した3人は、いろいろありつつも全員上京する(これもぼくと同じ)。
■「季節外れでもいつでも聴きたい」というメタファー
バブル期ポップスの象徴として、ワム!の「ラスト・クリスマス」が出てくる。「季節外れでもいつでも聴きたい」というメタファーに、狂騒へのあまやかな憧憬を織り込む著者の名人芸。のちにEXILEがヒットさせた日本語カバーの作詞者であるぼくは、激しい動悸を感じながら読んだ。「ダサい歌詞で私の青春を汚された!」と百万回は罵倒されてきた日本語カバーだが、作者ジョージ・マイケルは快諾どころかとても気に入って手紙までくれましたよ。そんな彼も鬼籍に入ったけど。