バブル期の狂騒と終焉は「新しめの昔話」ではない 現代と地続きの「終わりのない物語」だ
誰彼かまわず中国ファンドを売りつける。NTT株を捌きまくる。好色で金満家の福岡の開業医が、湾岸事業に関わる長崎のヤクザが、株の天才と呼ばれる兜町の風雲児が、ブランド品とホストクラブ遊びに夢中の銀座のホステスが登場する。かように小説のエンタメ度を高める細かい設定作業にも著者は余念がない。ダーティーな場面を描くときほど筆致が躍動して感じられるのも、桐野読者にとってはおなじみの昏さであり愉しさ。令和の読者はバブルがほどなく崩壊することを知っている。依然として女は男に搾取されつづけていることも。だから派手な場面ほど読んでいて苦しい。せつない。そしてこの小説がたんなる「新しめの昔話」ではなく、現代と地続きの「終わりのない物語」であることに気づく。
必読の書である。