シモーヌ・ヴェイユの生涯描く映画に奮い立つ 世界の地獄化を止める唯一の方法は「声を上げること」
とりわけ映画評論家・秦早穗子さん(来週めでたく92歳!)のご寄稿は読んで心がヒリヒリした。いわく「外国映画を見る時、人種問題、宗教問題を抜かして、感情面だけで判断すると見当違いになりがち」と。人間性も詞の世界もろくに知らぬまま洋楽アーティストに耽溺していた若き日の自分に読ませたい!
ホロコーストを生き延びてもなおシモーヌの苦難は続いた。「生存者や目撃者は、沈黙を貫くことを強いられた」という台詞があった。「『黙って生きろ』という空気が漂っていた」とも。社会はそんなシビアな要求を誰かの口からではなく「空気」に語らせようとした。でもシモーヌはその空気に抗い続けた。圧倒的な教養と勇気を備えた彼女の口を封じることは誰にもできなかった。黙することのない彼女にフランスの人びとは熱狂した。
これを外国の古い話だと割りきることはできない。それどころか、2023年の日本を生きるわれわれにこそ必要な教訓ではないか。世界の地獄化を止める唯一の方法は、声を上げることなのだ。この春から言いつづけてきたことを、ぼくは何度でも言いたい。勇気をもって声を上げよう、と。たとえあなたは黙って逃げきることができたとしても「声を上げてもムダ」という諦めを下の世代に残した罪からは逃れられないのだから。
監督は『エディット・ピアフ』のオリヴィエ・ダアン。主役のシモーヌは、10代から30代をレベッカ・マルデールが、40代から70代を生前のシモーヌ本人と深い交流があったエルザ・ジルベルスタインがそれぞれ熱演している。必見の一作。