この国の音楽業界には、こんなにカッコいい72歳がいる。
だが最末期の週朝ほどではないにせよ、サン毎も近年は表紙モデルにジャニーズ所属タレントの起用が多い。いくら田中ヤッシーの提案とはいえ、自己批判となるこの企画をサン毎もよく引き受けたものだと妙に感心しつつ、鼎談に臨んだ。
饒舌トリオが語りあった内容の詳細についてはサン毎の次号に譲るとして、ここでは10数年ぶりに会った近田さんに触れたい。初めてお目にかかったのは30年前、ぼくが音楽コラムを連載していた雑誌『POPEYE』のインタビュー。取材の時間は知的興奮に満ちていて、あっという間に過ぎた。だが取材をまとめた原稿にはいくぶんトリッキーなアプローチが含まれており、近田さんはそれをピシャリと指摘した。
まだ大学に籍を置いていた20代半ばのぼくは、好奇心なら人一倍、野心も人並み、でもスキルが絶対的に欠けていたことは否めない。キャパオーバーな仕事を小手先で何とかやり過ごそうとする狡猾さを、近田さんは見逃さなかったのだ。当時の彼よりひと回りも年上になったいま、若い時分にそんな大人とめぐり逢えたことの僥倖をぼくはじっくりと噛みしめている。2年前に出版された語り下ろし本『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』(構成・下井草秀/リトルモア)を読めば、彼の人格がどうやって形成されたのか知ることができるはずだ。