小椋佳さんが米国で出会ったミュージカル「The Me Nobody Knows」子供たちの音楽表現に胸が震えた

公開日: 更新日:

小椋佳さん(シンガー・ソングライター/79歳)

「しおさいの詩」「シクラメンのかほり」などヒット曲を数えればキリがないほど。シンガー・ソングライターの小椋佳さんは銀行員との二足のワラジを履きながら、コンサート活動、ミュージカルの制作などを精力的に行ってきたが、その時々に影響を受けた音楽があったという。

 ◇  ◇  ◇

 ひとつは曲というより僕が長年関わったミュージカルですね。「The Me Nobody Knows」。「誰も知らない私」というブロードウェーのミュージカルです。

■銀行員時代に留学、入り浸ったブロードウェイ

 僕がデビューしたのは1971年です。この時に出したのは「青春~砂漠の少年」というLPです。当時は第一勧業銀行(現みずほ銀行)に勤めるサラリーマンでした。そのLPを出して26歳の時に第一勧銀からシカゴの大学院に留学することになりました。

 勧銀が大学院に留学生を出した2期生です。まだ、制度が整っていない時期でしたからね、期間は1年。ビジネススクールは2年いかないとマスターをとれないのに、たった1年です。日当は少ないし、僕はふてくされちゃってね(笑)。学校にはあまり行かないでアメリカ中を旅して回ったんです。

 グレーハウンドというバス会社の3カ月間99ドルのバスチケットを買いました。どこでバスに乗って降りてもいいチケットです。宿代は無賃。ビジネススクールにはアメリカ全土から学生が来ていたので、その親元に手紙を出すと息子の親友が来たといって歓迎してくれました。ジャパニーズだって喜ばれましたね。

 ラスベガスではバスを降りたら、黒人の大男2人が後をついてきて、あれは怖かったな。ワシントンでは優しいおじさんがウチに寄ってけというのでついていったら、突然ズボンを脱ぎだしたから、一目散に逃げました(笑)。メキシコでは親切にしてくれた男に財布もパスポートも盗まれましたね。いろんな経験をしました。

 そんな旅をしながらニューヨークにもしばらく滞在しました。田舎もんですから、ミュージカルを見ますよね。その時もすでに歌はやっていたわけだけど、ミュージカルを見て音楽表現としてこんな世界があるんだとびっくりしちゃってね。歌は口だけで表現するけど、ミュージカルは全身表現です。魅了されて入り浸りました。

 お金がないからいろんな手も使いました。ミュージカルは大体が2幕ものです。1幕は入らないで我慢する。ブロードウェーのシアターはロビーがないので、1幕が終わり休憩時間になると客はたばこを吸うために外に出てくる。彼らが帰る波に紛れて入って第2幕から無料鑑賞をしたりね(笑)。

 その中でかかったのが「The Me Nobody Knows」です。ハーレムの子供たちの詩集や作文集をベースにしたミュージカルです。出演者は8歳から17歳くらいまでの子供たちだけ。その歌と踊りがもうすごいんですよ。僕は胸が震えちゃってね。僕が作る曲とは違うけど、音楽のすごさを感じました。

 その中の曲では「How I Feel」ですね。俺のことなんか誰も知らない、どうやって生きたらいいのかわからない……。そういう子供の詞です。

 留学から戻っても銀行員をやりながら歌手、作曲を続けましたが、40歳くらいになって親しい友人数人と日本でミュージカルをやろうということになって、ミュージカル作りを始めました。ただ日本の子供たちが歌ったり踊ったりはできないから、最初はアメリカの子供たちでやることになりました。金曜夜にアメリカに飛んで、月曜に帰るとんぼ返りでニューヨークに何度か行ったりしながら、オーディションをやって。15人連れてきました。

■3年間で4億円の計画が…

 3年間で4億円を使う計画でした。でも、お金がかかって5000万円の赤字、持ち出しになりました。15人といってもお母さんたちもついて来るから滞在費を出さないといけない。終わって食事に連れて行ったらその時間の残業代を出せって(笑)。大変でした。

 子供たちもヤンチャでね。ホテルの部屋の中で花火大会を始めちゃったこともある。消火器で消そうとして廊下中が泡だらけになりました。

 それで87年から日本の少年少女だけでやってみようというので始めたのがアルゴというミュージカルです。毎年新作を1本作り、全国を公演して回りました。それを20年間。でも、まだ銀行員をやっていたので制作は人任せ。完成して初日の公演を終えた時に達成感はあったけど、出来上がりは納得できるものではなかったですね。

 そのことがまだ僕の中ではシコっています。来年80歳ですが、1本でいいから満足できるミュージカルを作って死にたいというのはあります。やるなら勝海舟ですね。勝麟太郎のミュージカルです。あの人の話は面白いかもしれないと思っています。町人かたぎで権力者なんてくだらないという精神の持ち主だと思っています。いい書き手がいればねえ……。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末