BSイレブン競馬中継実況アナ舩山陽司さんの“もう一つの顔”は格闘家 「チェストプレスは115キロ。49歳で自己ベストです」
競馬実況はAIにできても、相撲は無理
さて、マッスルアナは立教大卒業後はNHKに就職。その後、現ラジオNIKKEI主催の「レースアナウンサー養成講座」を経て1999年、ラジオNIKKEIに入社し、競馬の実況アナとして歩み始めた。
「大学時代の週末はウインズ後楽園で馬券を買って、池袋の雀荘で友達と卓を囲みながらテレビでレースを観戦するような生活でしたが、競馬を仕事にするつもりはありませんでした。しかし、NHKを辞めて1年ほどプラプラしていたら、レースアナの養成講座を見つけて、『これなら、つぶしが利くかな』くらいの軽い気持ちで応募したことで今に至ります。中央はもちろん、地方や海外を含めると、実況した競馬場は30を超えます。この数をこなした実況アナは、あまりいないと思いますよ」
最近は、門別や盛岡、水沢などの競馬場で実況を担当。相撲は本場所の開催中にAbemaTVで実況する。競馬と相撲とでは、実況に違いはあるのか。まずは競馬だ。
「競馬実況の場合、有力馬の動き出しや勝負どころをどう伝えるかなどのポイントはあるにせよ、基本的には馬群を前から順に伝えるので、ある程度訓練を積んだ人ならそれほど難しくありません。予測不能なトラブルも、ほとんどないですから。それよりも重要なのは、リプレーに堪えうる表現ができるかどうかです。競馬ファンならご存じのように、ある重賞レースの前は、各馬のステップレースがたびたび流れます。時間が経ってから見たリプレーの実況が、視聴者の納得が得られなかったり陳腐だったりする表現だと、よくないのです」
たとえば競馬実況の大御所・白川次郎の名ゼリフとして知られる2000年のダービーだ。当時ダービー無冠の名手・河内洋が手綱を取るアグネスフライトとダービー2連勝で迎えた天才・武豊&エアシャカールが鼻面を併せてゴールに入線すると、「河内の夢か、豊の意地か」と熱い言葉で熱戦を盛り上げた。それまでの河内の足跡を知るファンなら、リプレーで聞いてもグッとくる。あれが単に「河内か、豊か」では味気ない表現だ。
では、相撲は?
「相撲は、立ち合いまでは想定内でも、『待ったなし』で取組が始まると、予測不能なことの連続です。相撲の実況の方が断然難しい。競馬の実況はAIにできても、相撲は無理だと思いますよ」
01年夏場所の千秋楽、優勝決定戦で前日の膝のケガを乗り越えた貴乃花が武蔵丸を下して優勝すると、貴乃花の鬼の形相が映し出された。そのとき、実況のベテラン藤井康生アナから「この顔……」としか言葉が出なかったのは、ファンには有名なエピソード。相撲はベテランアナでも言葉に詰まるくらい予測不能な瞬間があるということだ。
競馬に相撲に頑張る体育会系アナ。これからは?
「フリーですから、ジャンル問わず、できる限りやります!」
腕の太さも仕事の幅もまだまだ発展途上だ。