小林綾子さんは時代劇「剣客商売」の「おはる」が俳優の転機に…「私の素に近い役柄でした」

公開日: 更新日:

職人気質のスタッフさんが徹底していい作品を作るという雰囲気がすごかった

「剣客商売」の撮影をしていたのは藤田さんがやられていた必殺仕事人シリーズのスタッフさんが多くて、さすが絆の強いしっかりしたチームワークのプロ集団でいらっしゃるなあと感じました。

 職人気質のスタッフさんが徹底していい作品を作るという雰囲気がすごかった。手際がよくてまさに職人の仕事をされている感じでした。

 アカデミー賞を受賞しているようなスタッフさんも多いのですが、例えば照明さんは「昨日寝てへんやろ!」と私の顔を見ただけですぐわかって「女優さんは8時間は寝ないとあかんで!」とアドバイスをしてくださったり。本当に仲のいい現場で、いろいろ勉強させていただきました。

 撮影時間は長いですから、ごくたまに間延びするような時間があると、藤田さんが「よし、いくぞ!」とみなさんに声をかけたりしてピリッと締めていました。監督さんがそういった声がけをしますが、藤田さんがおやりになると、またさらに現場が引き締まりましたね。

 藤田さんとの思い出話は尽きません。撮影期間はほぼ毎日と言ってもいいほどみなさんを連れて飲みに出かけてましたよ。こういう豪快な役者さんはもうなかなかいらっしゃらないのではないかと思います。

 レギュラーの役者にもゲストの方にも声をかけて自分の行きつけの店に誘って、ご飯とお酒をいただくのが恒例でした。スタッフもキャストも一丸となって作品を作る気持ちが強く、仲間を大切にされる役者さんだったと思います。

 時々は撮影所で鍋パーティーをやることもありました。藤田さんは鍋奉行だったんです(笑)。大きな鍋を3つ用意し、手の空いたスタッフが交代で野菜を刻んだりして準備を進める。その後煮ていくのですが、藤田さんは空いてる時間にいい感じでできてるかどうかのぞきに来るんです。私は「まさに鍋奉行!」と思って見ていました。

 その日の撮影が終わるとキャスト、スタッフがみんなで鍋をつつき、同じ釜の飯を食べてまた親睦を深めていく。結束の固い現場でした。

 冬のロケでは炭を入れて温めた一斗缶に当たって撮影開始を待つのですが、藤田さんはどなたかが一斗缶に当たっていると必ず話しかけてくださるんです。私にもよく話しかけてくださりました。「これはこうだよね」とかお芝居のことから世間話まで。撮影の合間だけでなく、お酒の席でお話ししてくださることには武勇伝など面白い話もたくさんありました。温かい心遣いをされるとてもお優しい方でしたね。

 私の役の「おはる」は藤田さん演じる小兵衛と40歳違う、いわゆる年の差婚をした明るくて天真爛漫なキャラ。年の差があるから小兵衛にはずっと元気でいてもらわなくちゃと卵やすりおろした山芋など精のつくものばかり食べさせるという(笑)。

 私が過去に演じました「おしん」は耐え忍び我慢するイメージの役でしたが、おはるの役をいただき、見てくださる方たちの印象が変わったようです。今振り返ると大切なターニングポイントになったと思います。もちろん「おしん」の後もいろんな役をやらせていただきましたが、おはるは私の素に近い役柄でした。

 東京での仕事を終えてまた京都で「剣客商売」の仕事に入ると、嵯峨野に建てられた小兵衛の家がすてきな自然の中にあり、実家に帰ってきたようなホッとした気持ちで演じることができました。

 藤田さんと2人のシーンが多いので、台本はもちろんあるのですが、藤田さんと「こうしてみようか」「ああしてみましょう」と話して、そのアイデアが採用されることもよくありました。

 藤田さんは撮影前にじっくり考えられて、必ず監督さんに「ここはこうでどうでしょう」と相談されていました。

 すると、私は「藤田さんがこうされるなら私はこうしてみようかな」と。現場であれこれ考えながらお芝居を作っていく楽しみを教わりましたね。

 面白いアイデアは現場で生まれていました。藤田さんは関西の方ですからいつもユーモアがあふれていらっしゃいましたし、私はすごくのびのび演じられたことも大きかったです。

 そんな明るい夫婦の雰囲気は見てくださった方にも伝わったようで、今でも「おはる、大好きです」と話しかけられることも。今はBS放送などで再放送もありますしね。

 藤田さんは誰にもマネができない、唯一無二の役者さん。私は役の作り方からスタッフ、共演者を大切にされるところまで多くを学ばせていただき、心から感謝しています。

 私はプライベートでは山が大好きなんです。子供の頃に母親に連れられて登ったのが最初。最近は仕事としても山番組に出演し、北アルプスの山々にも登らせていただいています。

 実は私、山の日生まれなんですよ。16年に施行された山の日と自分の誕生日が偶然にも同じ日になり、「山とはご縁があるのだなあ」とうれしく思っています。

 登った山は百名山だと40くらいで、他の山を加えると数えきれない。今は山の日アンバサダーとしても活動していますので、これからも山や自然の魅力をお伝えしていきたいと思います。

 年明け早々には舞台の「明治座新春純烈公演」があり、これから稽古が始まります。また忙しい日々ですが、「剣客商売」で学んだことを生かして頑張ります!

(聞き手=松野大介)

▽こばやし・あやこ 1972年8月11日生まれ、東京都出身。5歳からドラマやCMで芸能活動を始める。83年の連続テレビ小説「おしん」(NHK)が大ヒット。現在ドラマや映画で活躍中。

「明治座新春純烈公演」(1月7~28日)。チケット一般発売11月23日開始。詳細は明治座公式サイトへ。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動