「できることがやや減るだけ」同じ目線、尊厳で接すること
また、職業柄、若いころからのルーティンである新聞、雑誌の記事のスクラップ、浮かんだプランのメモはもちろん、好きなジャズライブの観賞、うまいもの店巡り、週末の競馬などを以前にも増して精力的に続けている。つまりポジティブなスタンスで脳に負荷をかけているのだ。さらに、補聴器を新調し、スムーズなコミュニケーションに努めている。家族も現実を受け入れた上で「できるだけ特別扱いしない」と決めているという。知人の話を聞くかぎり、認知症の高齢者と家族の関係は理想的といっていいだろう。
このコラムで何度も述べているが、認知症は発症以前よりも「できることがやや減るだけ」だということを、当事者も家族も忘れてはならない。医療現場で認知症診断に使われている「長谷川式簡易知能評価スケール」の考案者である医師の長谷川和夫氏は、自身が約2年前に認知症と診断されたことを公表している。氏の認知症は嗜銀顆粒性認知症と呼ばれるものだという。
このタイプの認知症は嗜銀顆粒という物質が脳内で増加することで認知機能障害が生じる。物忘れ、記銘力の低下ほか、怒りっぽくなるなどの性格の変化が表れるが、症状の進行はアルツハイマー型認知症に比べて比較的ゆっくりだ。長谷川氏は自分が認知症になって実感できることが数多くあったと感想を漏らした上でこうつづっている。「認知症でない人が認知症の人に接するときには、自分と同じ尊厳をもった同じ人間として、目線を同じ高さにして、特別待遇をせずに自然に接するのが大切です」(「文芸春秋」2019年7月号)