女じゃなくなっちゃうと号泣…フラメンコダンサーの鍜地陽子さん乳がんでの両胸全摘を振り返る

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髪の毛がザバザバ抜けた衝撃は忘れられない

 ところが、術後の病理検査で2ミリだと思っていたものが4ミリで、もうひとつ微小だと思っていたものが2.2ミリだったことが判明し、抗がん剤治療をしたほうがいいという結論になりました。

「胸の次は髪か」とがっくりして、また泣きました。抗がん剤は3週間を1クールとする治療で、計4回。1回目の抗がん剤を投与したあと、2週間して髪の毛がザバザバ抜けた衝撃は忘れられません。当時、コロナワクチンも打たなければならず、めまいがして仕事もできず、見た目はオランウータンのように変わり果て、「自分にはなんの価値もない」と、さめざめ泣いて、今思えばうつになる一歩手前でした。

 でも、もともとマイナスな気持ちが長続きしない性格ですし、幸い、主人も息子も病気を理解して私を受け入れてくれる人だったので、うつを回避できました。

 抗がん剤のあと、放射線治療のため25日間、月~金で通院しました。その後にホルモン治療となり、現在も女性ホルモンを抑制する薬を毎日飲んでいます。ホルモン陽性タイプの乳がんは、女性ホルモンをエサにして成長するからです。

 胸の再建手術は、乳房の全摘手術から約1年後でした。そのために、胸壁を避けてその周りから放射線を照射してもらっていました。放射線をすると皮膚が拘縮して膨らますことができなくなるからです。おかげさまで両胸の再建が完了し、今は本当に元気です。

 ただ、1年間は腕が上がらない状態でした。特に左腕は服を着替えるのも不自由するくらい。フラメンコは、腕や手を大きく使う踊りなので、なんとかしなければと独自の保湿とストレッチを考えて、今はすっかり上がるようになりましたけれど。

 治療中もできる限り仕事をしました。フラメンコの教室もライブも、運動はずっとやっていました。運動習慣があるかないかで予後が違うと聞いていましたからね。抗がん剤の副作用も軽かったみたいで、実際、味覚障害も出ませんでした。

 病気を経て、自分の体を知ることの大切さを知りました。何が必要か、情報をたくさん集めて、できることはやる。でも基本の治療は先生にお任せして標準治療をやる。それが大事だなと思いました。

 今は、ホルモンの薬ととともに、サプリメントをたくさん飲んでいます。ホルモン療法は骨粗しょう症になりやすいというリスクがあるので、カルシウムと、カルシウムの吸収を高めてくれるビタミンDを中心にいろいろ……。

 女性ホルモンを止めると更年期障害の症状が出るので、そのための漢方なども含めると山盛りです。朝ごはんの前にお腹いっぱいになっちゃう(笑)。

 がんについての知識は増えました。でも、基本的にはがんになった自分を忘れていいと思うのです。再発や転移におびえて暮らすより、治療は終わっているのだからやれることはやって、あとはあまり考えずに過ごすほうがいいのかなって。「日々を大事に生きないとな~」ということは時々思い出します(笑)。

 あとは周りの人のありがたさ。具合の悪いときに周りにいてくれる人は本当にありがたい存在です。

 もうひとつありがたかったのはがん保険です。私、大卒後は保険会社にいたこともあって、この世界で生きていくことにしたときにがん保険に加入したのです。長年の掛け金、やっと回収できました(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽かじ・ようこ 1973年生まれ。大学のスペイン語学科在学中にフラメンコに出会い、社会人を経て、97年にスペインに渡り本格的にフラメンコを学ぶ。2000年に日本フラメンコ協会主催の新人公演で奨励賞を受賞。07年、神楽坂に開設したスタジオ「Estudio Cielo Azul」でフラメンコ教室を開始。国内外でライブや舞台公演を行いながら、後進の指導にも尽力している。

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