金足農・吉田の881球を「酷使」と簡単に否定はできない
だからこそ、「指導者が止めるべきだ」と思っていたのだが、私がその立場だった場合、投げたい、完全燃焼したいと訴える投手に「ダメだ」「投げるな」と果たして言えるだろうか。
気持ちが揺れ始めた私は、思わずその場で携帯電話を手に取り、ある番号をプッシュした。かけた相手は日本ハムの斎藤佑樹だった。斎藤は早実時代の06年夏の甲子園で、史上最多の948球を投げて優勝投手になった。
「もし、あの年の甲子園で、あの決勝で故障したらとは考えなかったか」
突然の私の質問に、電話の向こうの斎藤は考えるでもなく即答した。
「故障したとしても、本望だと思っていました」
今夏、秋田・金足農の右腕投手、吉田輝星が甲子園を席巻した。決勝までの全6試合に先発し、総投球数は881球に達した。ひとりで投げ抜いた予選の地方大会も含めれば、この夏の球数は1517球に上る。議論になるのは当然だが、選手の心情を考えれば、軽々に指導者を責めることができなくなった。プロ野球のエースになるような選手は、この程度のことでは潰れない。私にできるのは、そう信じることだけである。