「水原騒動」とは日本のメディアの談話主義がロクでもない人物をのさばらせた結果だ
カルロス・ロペス、ロザ・モタ、フェルナンド・マメーデといった金メダリストや世界記録保持者の相手は楽なものだった。プロアスリートは優れた肉体表現者だ。だから野茂英雄も松井秀喜も、大谷翔平にしても、球場に入れば、コーチや仲間が何を話し、何を考えているか誰よりも分かる。通訳などどれほどのものでもないのだ。大谷の元通訳の驚くべき罪状が問題になっているが、なぜあの男はそんなに偉くなったのか。
リー兄弟がいたロッテを担当していた頃、通訳のKさんの仕事は身の回りの世話で、メディア対応は片手間だった。レオン・リーは無口な男だったが、そもそも記事の基本が選手のコメントではなくストーリーだったからだ。
スポーツ報道が選手の談話頼みになったのはJリーグ以降。報道が記者の目ではなく選手のコメントや卑近なエピソードで安直に構成されるようになり、選手に近い通訳が重宝されるようになった──。
国際舞台で起きた水原事件だが、日本のメディアの談話主義がロクでもない人物をのさばらせた結果の、きわめてドメスティックな事件だ。アメリカ人には分からないだろう。
大谷翔平は純朴な東北人だ。ただ、高校時代に習った格言を思い出す。Ignorance of the law excuses no man.(法律に、知らなかったは通用しない)。野球史上最悪の裏切りの背景を、私たちはとぼけてはいけない。