「大谷翔平が出現した今は日本プロ野球界の歴史的転換期」取材歴50年のベテランが抱く危機感

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日本の球団は個人商店の集まり

 ──著書ではコミッショナーの問題にも言及している。

 例えば、今季のプロ野球はボールが飛ばないと話題になっている。実際に昨年、一昨年に比べて本塁打数が激減している(編集部注:対戦相手が一巡した時点での本塁打数は82試合で66本。一昨年は80試合で108本、昨年は79試合で98本)。変化球全盛時代で打者が当てにいくような打撃が増えているのも理由のひとつだと考えますが、これが大リーグだったら“投高打低”のときには、ストライクゾーンをボール1個分、高くするでしょう。投手は高めに投げざるを得ないから、必然的に本塁打数も打率も上がる。本塁打が出過ぎれば逆にストライクゾーンを下げる。大リーグは迅速にそうした施策を打ち出して、ファンの興味をつなぎ留める運営をします。コミッショナーがリーダーシップを発揮するのです。

 ──日本の場合はなにかとコミッショナーのリーダーシップが俎上に載ります。

 日本のコミッショナーは顔も姿も見えないのは確か。アメリカはコミッショナーをトップにして30球団が大きな企業体としてMLBを運営しているのに対し、日本は個人商店の集まり。各商店がNPBというスーパーに出店しているようなもので、コミッショナーの権限より最終的には各商店がそれぞれの利益を優先する。MLBはぜいたく税を導入するなど全体の経営と運営の均衡化を図りますが、日本は各球団が自分たちの利害ばかりを主張する。そうした体質、構図がこれから日本プロ野球の弱みになるのではないか。球界の危機感の希薄さにも懸念を持っています。

 ──危機感とは。

 日本の人口が加速度的に減少している。当然、高校や中学の野球競技人口も減っています(日本野球協議会の調査によれば、2022年の高野連の選手登録者数は13万1259人、中体連は13万7384人。2010年時はそれぞれ16万8488人、29万1015人だった)。特に中学生の競技人口の減少がひどい。底辺の縮小は、プロ野球を直撃します。

■球史にあった3つの革命

 ──日本のスター選手の多くは、ドジャースの大谷翔平を筆頭にメジャーに流出する。その流れは止められません。

 後ろ向きな話が続きましたが、大谷翔平が出現した今の球界は歴史的転換期です。球史を振り返ると、3つの革命があった。1つは、王貞治さんによるホームラン。2つ目はスイッチヒッター。これは、1番打者として巨人のV9を牽引した柴田勲が道を開いた。もともと投手で右打者だった柴田は川上哲治監督の勧めで左打ちにも挑戦しましたが、最初は「なにをバカげたことを」と周囲は冷笑していた。3つ目はもちろん、大谷による二刀流です。柴田の成功によってスイッチヒッターが当たり前になったように、今後は大谷に続く二刀流選手が間違いなく出る。個性的な選手の台頭によって、日本の野球がその魅力を取り戻すことを願っています。数多い試合を含め、1年を通じて話題を提供するスポーツはプロ野球だけです。それをメディアもファンも再認識して欲しい。そういう願いを込めた一冊でもあるんです。

(聞き手=森本啓士/日刊ゲンダイ)

▽菅谷齊(すがや・ひとし) 1943年、東京都生まれ。共同通信社でV9時代の巨人をはじめ、阪神などを担当。1970年代からメジャーリーグも取材した。野球殿堂選考代表幹事を務めたほか、三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。現在は東京プロ野球記者OBクラブ会長。

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