《山内孝徳の巻》“ヒゲのエース”が直立不動の僕に語ったコントロールの極意
「……3球。4球はいかないですね」
「俺でも試合が始まったら、捕手が構えたところにずばっと行くのは10球中2、3球くらいや。田尻の場合、10球中1球行けばラッキーだろ? そういうことを意識しながら練習せんと、この世界ではやっていけんよ」
重圧がないブルペンとはいえ、狙った箇所に9割投げられる投手がどれだけいるか。孝さんはこうも言いました。
「そもそも、自分で投げてて『どの辺にボールが行きそうだ』って感覚があるか? 俺はな、あかん、抜けそうや、って時は中指でボールを押して軌道を変えられるよ」
こうしたアドバイスは、当時の藤田二軍投手コーチが「田尻に教えてやってくれ」と、孝さんにお願いしたものでしょう。僕は結局、2年で引退しましたが、アドバイスは打撃投手時代に徐々に理解できるようになりました。
さすがに孝さんのように指先で軌道を変えることはできませんが、「打者にぶつけるかも」と思った場合は、体を強引に回転させて軌道を修正できるようになりました。この連載も残り2回。次は「史上最強のスイッチヒッター」と呼ばれた松永浩美さんの話です。