「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎著

公開日: 更新日:

 小さな波紋は、コンピューターのシステム管理者が妻に逃げられたことから始まった。ショックに陥った管理者は思わず机を蹴飛ばし、その勢いで棚が倒れてハードディスクが破損。驚いた後輩社員が手にしていた缶コーヒーをバックアップの入ったテープ媒体にこぼしてしまう。そして失われたデータを補うために、後輩社員は街頭アンケートをするのだが、そこである女性と知り合う――。

 何げない男女の出会いを描いたかに見える冒頭の「アイネクライネ」だが、ここにはさまざまな伏線が仕掛けられており、続く「ライトヘビー」ではその伏線のひとつを膨らませながら新たな伏線が仕組まれ、そして次には……という具合に、最後の「ナハトムジーク」に至る6つの物語が複雑に絡まり合いながらひとつにつながっていく。

 小さな奇跡がきっかけとなって思わぬ人々が関係づけられていき、そこにまた小さな奇跡が生まれるという、著者には珍しく、恋愛を核とした連作短編集。軽妙な語り口、洒落た警句、張り巡らされた伏線と、伊坂作品のエッセンスもたっぷり。

(幻冬舎 1400円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が