「砂の王宮」楡周平著
昭和22年4月、神戸・三宮の闇市で甘味料に化ける薬剤を売りさばいて大金を稼いでいた塙太吉は、進駐軍相手のブローカーをしていた深町信介と出会う。
戦後の混乱に乗じ、薬の安価販売で大儲けしようという深町と組んで莫大な利益を挙げた後、アメリカにあったスーパーマーケット商法を日本でも定着させ、面白いように次々と商売を成功させていく。しかし、東京1号店を出すために紹介された男との出会いによって、思いがけぬ事件に巻き込まれ、絶体絶命の危機に陥ってしまう……。
本書は、自らの才覚で戦後の闇市から日本一のスーパーを立ち上げ、流通王となった男の栄枯盛衰を描いた経済小説。戦後の焼け跡から流通王にのし上がるまでの若き日々を描いた第1部と、後継者育成に悩む晩年の塙が過去から思わぬ逆襲を受ける第2部の2部構成。
大企業が資本力を武器に業界を席巻した戦後から、古いビジネスモデルの終焉と新たなビジネスの萌芽へと続く流通史にもなっている。(集英社 1700円+税)