「関西かくし味」井上理津子著
“人”が隠し味の関西エリアの飲み食い本
待ってました! ぼくら関東者には完全アウェーの関西エリア飲み食い本。
京都へは仕事の関係もあり何度も行っているので、ある程度のアタリはつくし、並の京都人だって知らない“朝まで中島みゆきかけています”なんて店も知っているが、大阪となるとねえ……さっぱり勝手がわからない。
旅行ガイドブックを見ればそれなりの店は紹介されているけど、それを見て行こう! と思うほど、こちらもウブじゃない。実感がないんですよ、ああいう記事って。ところが、この井上理津子本は、隅から隅まで彼女じゃなければ書けない店と人と味の紹介本。
先日、新潮文庫となった「さいごの色街 飛田」はノンフィクションライターとしての力量を見せつけ、さらに、「葬送の仕事師たち」でも、余人では成し得なかったテーマに取り組んで、大きな評価を得ている。
奈良市で生を受け長年の大阪暮らし、現在は東京在住となるも、何かといえば関西に戻り、当然のことながら、あちこち食べ歩き、飲み回る。
こちとら、いくらアウェーだからといっても……とページを繰っていくが知っている店が一軒もない! これには驚いた。ということは観光客相手の有名店は意識的にハズシている?
「千日前道具屋筋近くの小道に店がある。入るや否や、おお! これこれ。これこそわが大阪の匂いやと」
これは友人から「まあ行ってみて。びっくりするから」と勧められて入った店の書き出し。あるいは、「通天閣の足下にあるジャズ・バー『ベビー』で、小腹がすいていると、マスターがコレの出前を頼んでくれる」。
ねえ、実感があるでしょ。この店に行って食べたくなるでしょ。そしてその店の人の顔を見たくなる。そうか、この飲み食い本の“隠し味”は実は“人”だったのか!(ミシマ社 1500円+税)