著者のコラム一覧
坂崎重盛編集者、エッセイスト

1942年、東京都生まれ。編集者、エッセイスト。千葉大学造園学科で造園学と風景計画を専攻。著書に、「東京煮込み横丁評判記」「『絵のある』岩波文庫への招待」「粋人粋筆探訪」など多数。BSジャパンの「酒とつまみと男と女」に出演し、不良隠居として人気に。

「関西かくし味」井上理津子著

公開日: 更新日:

“人”が隠し味の関西エリアの飲み食い本

 待ってました! ぼくら関東者には完全アウェーの関西エリア飲み食い本。

 京都へは仕事の関係もあり何度も行っているので、ある程度のアタリはつくし、並の京都人だって知らない“朝まで中島みゆきかけています”なんて店も知っているが、大阪となるとねえ……さっぱり勝手がわからない。

 旅行ガイドブックを見ればそれなりの店は紹介されているけど、それを見て行こう! と思うほど、こちらもウブじゃない。実感がないんですよ、ああいう記事って。ところが、この井上理津子本は、隅から隅まで彼女じゃなければ書けない店と人と味の紹介本。

 先日、新潮文庫となった「さいごの色街 飛田」はノンフィクションライターとしての力量を見せつけ、さらに、「葬送の仕事師たち」でも、余人では成し得なかったテーマに取り組んで、大きな評価を得ている。

 奈良市で生を受け長年の大阪暮らし、現在は東京在住となるも、何かといえば関西に戻り、当然のことながら、あちこち食べ歩き、飲み回る。

 こちとら、いくらアウェーだからといっても……とページを繰っていくが知っている店が一軒もない! これには驚いた。ということは観光客相手の有名店は意識的にハズシている?

「千日前道具屋筋近くの小道に店がある。入るや否や、おお! これこれ。これこそわが大阪の匂いやと」

 これは友人から「まあ行ってみて。びっくりするから」と勧められて入った店の書き出し。あるいは、「通天閣の足下にあるジャズ・バー『ベビー』で、小腹がすいていると、マスターがコレの出前を頼んでくれる」。

 ねえ、実感があるでしょ。この店に行って食べたくなるでしょ。そしてその店の人の顔を見たくなる。そうか、この飲み食い本の“隠し味”は実は“人”だったのか!(ミシマ社 1500円+税)


【連載】舌調べの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動