福島の復興を妨げる政府と東電のお粗末
東日本大震災から今年で6年である。復旧・復興が進んでいる地域もあるが、福島第1原発を抱える福島県に関しては、地元住民が元の生活を取り戻せているわけではなく、また原発事故の収束など程遠い状況だ。
そこで、佐藤政男著「現地情報から読み解くふるさと福島」(合同フォレスト 1600円+税)では、地元マスコミの報道や資料から、福島の現状を分析。福島県立医科大学公害医学研究室助教授を務めた著者が、薬学系の機関紙に2012年12月から連載してきた「福島のいま」に加筆修正して紹介していく。
15年6月、政府が復興指針改定を閣議決定後に帰還を決めたのが、原発から20キロ圏内にある楢葉町だった。政府は町の一部だけでなく全町を対象とした初めての避難指示解除例であるとして、大きく喧伝していた。
しかし、その内容はあまりにもお粗末だった。町の大部分を占める山林の除染はできなかったが、住居の周り20メートルは除染したので、避難指示を解除する、賠償も打ち切る、というものだ。結果、16年7月の時点でも、帰還者は人口のわずか9・6%にとどまっている。当たり前の結果だろう。
復旧・復興の妨げとなっているのはやはり原発だが、問題は政府と東京電力の対応力の低さにある。15年2月、東電は「福島第1原発2号機の原子炉建屋の屋上に、高い濃度の汚染水がたまっていた」と発表した。実は、14年の4月以降、放射性物質濃度の上昇は確認されていたにもかかわらず、東電は10カ月間公表せず、国にも報告していなかったのだ。
これを受けて菅官房長官は、「港湾外の海水の放射能濃度は法令告示濃度に比べて低く、汚染水の影響は完全にブロックされている」として取り合わなかった。確かに、海水中の放射性セシウム濃度は一時的な高濃度からは低下している。それでも、原発事故前の50~120倍という濃度なのだ。
安倍総理は「福島の復興なくして日本の再生なし」と宣言している。しかし、福島の現状を直視できているのか、甚だ疑問と言わざるを得ない。