「海の見える駅」村松拓著
世界有数の長い海岸線を持つ日本は、「海の見える駅」が多い。約1万ある国内の鉄道駅のうち、ホームや駅舎などから海が見える駅をこれまでに300カ所訪ねてきたという著者が、特に印象に残った70駅を紹介するビジュアルブック。
まずは北海道のJR釧網本線「北浜駅」。網走駅から普通列車で17分のこの駅は、日本でも非常に珍しい「流氷の見える駅」だという。ホームに降り立つと、氷で真っ白になったオホーツク海が目前に広がり、東には知床連山がそびえる。
この雄大な景色が旅情を誘うのか、無人の小さな木造駅舎内の壁や天井は、訪れた人の名刺や切符で埋め尽くされている。
太平洋側を南下した三陸鉄道北リアス線「野田玉川駅」(岩手県)のホームは、東向きの高台にあり、水平線から昇る太陽に出合える。元旦にはこの駅で初日の出を拝むダイヤで編成された臨時列車「初日の出号」が運行するそうだ。
当然だが、日本海側に南下すれば夕日もめでることができる。秋田県の東能代駅から青森県の川部駅まで約150キロをつなぐJR五能線は、その大半が日本海の険しい海岸線にへばりつくように海の近くを走る。海の見える駅も多くあり、中でも「驫木駅」はひときわ情緒があるそうだ。夕暮れ時には、太陽が真正面に落ちていき、海と空が赤く染まる。そんな景色の中に浮かび上がる小さな木造駅舎のシルエットがまた旅の忘れられないワンシーンを演出する。
その他、ホームに数十本もの桜が植えられ、春には桜吹雪の向こうに七尾湾が望める、のと鉄道七尾線「能登鹿島駅」(石川県)や、景勝地の「枯木灘」がホームから見下ろせるJR紀勢本線「和深駅」(和歌山県)、伊予灘と島々の穏やかな情景が多くの人を魅了し海の見える駅としては(おそらく)日本一有名なJR予讃線「下灘駅」(愛媛県)、そして島原鉄道線「大三東駅」(長崎県)はホームのすぐ隣が有明海で潮が引けば干潟が広がり、潮が満ちるとすぐ下まで海水が迫る。
その多くは、近くに観光名所もない無人駅で、地元の人にとっては日常の、どこにでもあるただの駅ばかりだが、「降り立った瞬間に聞こえてくる潮騒や、海・山・街が調和したどこか懐かしい光景は、どんなに名の知れた観光地よりも『ああ、旅に来たのだな』と感じさせてくれる」と著者はその魅力を語る。
そんなひなびた駅が多い中、JR常磐線の「日立駅」(茨城県)は、そのオシャレで異彩を放つ。鉄道の国際デザインコンペで優秀賞に輝いたというその駅舎のガラス張りの自由通路に上がると、一面に太平洋が広がる。
湖が見える駅4駅もおまけに加え、駅へのアクセスや運行本数などのデータも添えて、北から南まで海岸線をたどるようにそれぞれの駅を紹介。
行楽シーズン到来。車窓から紅葉を眺め、列車を降りれば、徒歩0分で絶景に出合える旅なんていかがだろう。
(雷鳥社 1500円+税)