「PHOTO ARK 動物の箱舟」ジョエル・サートレイ著 写真、関谷冬華・訳
動物の写真集なのだが、類書とはちょっと趣が異なる。「世界の生物多様性の喪失を食い止めたい、少なくともその進行を遅らせたい」という願いから生まれた「フォト・アーク」というプロジェクトの成果から生まれた一冊だという。このプロジェクトは、世界各地の施設で飼育されている1万2000種全ての動物を写真に収め記録に残す、いわば写真版「ノアの箱舟」のようなもの。
これまで計画の半分、約6000種もの撮影を終えたそうだが、本書はその中から約400種もの動物たちを掲載する。どんな動物たちにも同じ価値があることを伝えようと、条件を揃えるために撮影は全てスタジオで収録され、背景は黒か白に統一、被写体以外のものは写っていない。
いわば動物たちのポートレート集なのだ。
しかし、ページを開けばすぐに分かる通り、堅苦しさは一向に感じられない。
例えば「合わせ鏡」というテーマでまとめられた第1章では、じっとしていない被写体にやけくそになった著者の叫び声に立ち止まり、その正体を考えあぐねるように首をひねった「ホッキョクギツネ」と同じ体勢の「カマキリ」の組み合わせをはじめ、フクロウの目にそっくりの目玉模様を持つ「メムノンフクロウチョウ」と「アメリカワシミミズク」、鼻の白い模様が同じ形に見えるアカオザルの亜種「シュミットグエノン」と「アンデスコンドル」などを同ページに配し、種の違いを超え、多様性が織りなす生物の類似性や個性を表現する。
その他、木の上で食事をする「クロザル」と彼らについて歩き、木の下でおこぼれにあずかるイノシシ科の「スラウェシバビルサ」などのような「パートナー」の関係を持つ動物、薄く削ったプラスチックのような手触りの羽を持つ鳥「ニジチュウハシ」や、はげ頭まで真っ赤な顔の「アカウアカリ」、工芸品としか思えないようなカンムリ飾りを持つ「オウギバト」などの「変わりもの」、そして「グアムクイナ」のように野生種が絶滅してしまい、人間の手によって保護復活の試みがなされている「語り継ぐ希望」など、それぞれのテーマごとに動物たちを紹介する。
人間によって多くの動植物が、すさまじい勢いで絶滅に追いやられ、このままでは今世紀末には全生物種の半分が絶滅する可能性があるという。本書に掲載された動物たちの多くも、私たちが生きている間に絶滅するかもしれないのだ。
動物の代理人、声なきものの代弁者と自負する著者の作品は、確かに初対面であるはずの動物たちの瞳から感情が伝わり、彼らの訴えが聞こえてくるようだ。
著者は「存在すら知らない相手を守ることはできない」という信念からこのプロジェクトに取り組んでいるという。知識として、そして情報として頭では分かっている生物多様性の重要性やその危機について、当事者たちの声を聴くような衝撃を覚えるお薦め本。
これらの写真を決して彼らの遺影としてはならない。
(日経ナショナル ジオグラフィック社 3600円+税)