「完全解説 ウルトラマン不滅の10大決戦」 古谷敏/やくみつる/佐々木徹著/集英社新書

公開日: 更新日:

 テレビ番組の放送から半世紀以上経つというのに、ウルトラマンの人気は衰えない。それどころか、世代を超えてファン層を広げている。なぜそこまでウルトラマンが人気なのか。その謎を解くために、これまで数多くの人がウルトラマンに関する記事や書籍を発表してきた。そこで語り尽くされたように見えたウルトラマン論だが、とても重要な部分にエアポケットがあった。それが、本書のテーマである「ウルトラマンと怪獣の戦い」だ。

 本書は鼎談形式で、総合司会をライターの佐々木徹氏が務め、漫画家のやくみつる氏とウルトラマンのなかに入って演技した俳優の古谷敏氏が語り合うスタイルだ。佐々木氏はプロレスファンとして有名で、やく氏も相撲解説者として活躍している。そして、古谷氏は実際にウルトラマンとして怪獣と戦った当事者だ。つまり、格闘のスペシャリストが集まって、怪獣との戦いを分析しているのだ。

 進行は、ウルトラマンと怪獣の戦いのベストテンをやく氏が選び、10位から1位に向けて発表していく形式だ。怪獣ごとに、戦いのサマリーがついているので、初めての人や、内容を忘れてしまった人にも理解できるだろう。そして、ベストテンの最大の驚きは、人気の高いレッドキングやバルタン星人が選ばれていないということだ。さらに、第1位には、誰もが驚く意外な怪獣が入っている。怪獣のキャラクターを語るのではなく、あくまでも戦いの面白さや意味づけから選ばれているからだ。

 そのなかで一番印象に残ったことは、単なる戦い方の分析にとどまらず、戦うことの意味という哲学的、倫理的な部分にも踏み込んでいることだ。

 怪獣は、それぞれに事情を抱えている。その怪獣を倒すことが本当に正しいことなのか。ウルトラマンは、単なる勧善懲悪を超えた深い苦悩を抱えているのだ。ウルトラマンは「寓話」だという表現が本書には出てくる。実は、寓話化したのはウルトラセブンからだと私は思い込んでいたのだが、すでにウルトラマンにその萌芽があったのだ。

 ウルトラマンファンだけでなく、日本のアニメや特撮に興味を持つすべての人にお勧めの秀作だ。 ★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」

  2. 2

    20代女子の「ホテル暮らし」1年間の支出報告…賃貸の家賃と比較してどうなった?

  3. 3

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  4. 4

    「フジ日枝案件」と物議、小池都知事肝いりの巨大噴水が“汚水”散布危機…大腸菌数が基準の最大27倍!

  5. 5

    “ホテル暮らし歴半年”20代女子はどう断捨離した? 家財道具はスーツケース2個分

  1. 6

    「ホテルで1人暮らし」意外なルールとトラブル 部屋に彼氏が遊びに来てもOKなの?

  2. 7

    TKO木下隆行が性加害を正式謝罪も…“ペットボトルキャラで復活”を後押ししてきたテレビ局の異常

  3. 8

    「高額療養費」負担引き上げ、患者の“治療諦め”で医療費2270億円削減…厚労省のトンデモ試算にSNS大炎上

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    松たか子と"18歳差共演"SixTONES松村北斗の評価爆騰がり 映画『ファーストキス 1ST KISS』興収14億円予想のヒット